本研究は汪兆銘(精衛)政権統治下の各地域で展開した日本語文学の実態を究明すべく、その基礎資料の整備および、現地邦人文学者 ・文芸文化団体の動向調査を試みるものである。研究最終年度である平成30年度においては、(1)これまで継続的に行ってきた文献収集・整理などの研究資料整備の充実を進めるとともに、(2)3年間の研究成果を集約・発信するべく、研究論文・共著の公刊および学会・シンポジウムでの報告を行うことに努めた。 (1)調査及び資料収集については、国会図書館・日本近代文学館などの国内主要図書館、上海図書館および同徐家ワイ(さんずい+匯)蔵書楼、国立台湾図書館・基隆市図書館などで関連文献の所蔵調査・収集を行うとともに、古書市場に出現した関連文献の購入をすすめた。 (2)研究成果報告については、まず論文・著書では、竹松良明氏ら関連分野の研究者とともに『戦前期中国関連雑誌細目収覧』を刊行、戦時下の中国各地で刊行された日本語文献の細目を公開し、当該分野の基礎資料に関する情報を広く公開した。個別の論文では、『立命館言語文化研究』(30巻1号)などの専門誌に投稿を行ったほか、調査収集の過程で発見した邦字雑誌『大陸』について『早稲田文学』(2018年初夏号)で組まれた特集や、『アジア遊学226 建築の近代文学誌』などの一般向け媒体でも研究を公開し、研究者はもちろん広く社会にも研究成果を公開することを行った。 またそれ以外にも、昭和文学会・台湾日本語文学会共催の国際シンポジウム「東アジアの日本語文学研究の可能性と課題」や、上海社会科学院歴史研究所主催の「中日学者中日関係研究者交流会」で発表報告を行うとともに、他の科研プロジェクトとの研究的連携を模索すべく「5科研連合研究集会・東アジアにおける日本語資料―外地文化研究の現在」(於・奈良大学)を主催し、今後の研究的展開を模索することにも努めた。
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