研究課題/領域番号 |
16K02441
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
市川 千恵子 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (10372822)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マーガレット・ハークネス / 女性労働組合 / ストライキ |
研究実績の概要 |
平成30年度は、マーガレット・ハークネスの作品に描かれる労働者の政治的意識の目覚めに着目し、労働運動を先導する立場の社会主義者の上層階級と、そうした思想の受容者としての労働者の緊張関係を検証した。ハークネスの作品では、その関係は父と子という伝統的な枠組みから提示されるが、階級を超えた女性たちの関係性が希薄であり、かつ女性労働者の声が断片的に描かれる。ハークネスも関心を寄せた女性労働組合運動の様相を調べるために、2018年9月にBritish Libraryにおいて、女性労働組合(the Women Trade Union League)の年報、女性労働組合運動の推進者によるパンフレットなどを閲読した。女性労働組合を支援する組織の長は貴族の女性、また組織委員会のメンバーは男性が多数を占めており、労働者女性たちの自発性を養うことを意識しつつも、庇護の対象としてのまなざしが根底に存在することは否めない。引き続き、組合運動における労働者女性たちの立ち位置を調査していきたい。 ハークネス研究の成果としては、2018年7月26~28日にカナダのヴィクトリア大学で開催されたThe Body and the Page in Victorian Culture: An International Conferenceにて “Anger and Hunger: A Body Politic of Working-Class Women in Margaret Harkness’s Slum Fiction”と題した発表を行った。ハークネスによる労働者女性のインタビュー(British Weeklyに連載、後にToilers in London (1889) として刊行)における女性労働者の声の強さ、感傷性、さらに小説に描かれる女性工場労働者の抵抗から、自立の術を模索する様相を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は国際学会にてマーガレット・ハークネスのフィクション、ノンフィクションにおける女性労働者とボディ・ポリティクスの研究成果の一部をまとめることができた。また近刊の共著においは労働者階級のエセル・カーニー・ホールズワースとエミリ・ブロンテを論じ、北部イングランドにおける階級を超えた女性作家の伝統を再検証した。ホールズワース研究は中流階級女性を主とする女性の著作研究の伝統に新たな展開をもたらすことになると思われる。また、ポスト・ヴィクトリアン小説という視点、女性参政権運動や女性の社会主義への傾倒という観点からもホールズワースは重要な作家の一人と位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の前半は国際学会での発表の準備を、そして年度内に現在執筆中の女性・暴動・ストライキをテーマとしたハークネスの研究論文を完成させ、投稿する予定である。まず、9月25日からニュージーランドのオタゴ大学で開催される国際学会では、“Women’s Writing on Sex: Rhetoric and Gender in the Social Purity Movement”というタイトルにて、研究発表を行う。この発表だが、ミネソタ大学のアナ・クラーク教授からの誘いを受けて、19世紀後半のセクシュアリティと思想に関するパネルを行うことになった。このテーマを本研究課題の女性労働とネットワーク形成という観点から検証し、1869年以降の女性労働者のセクシュアリティをめぐる文化的表象とその葛藤を示すことを目指したい。
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