研究課題/領域番号 |
16K02443
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
清水 徹郎 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (60235653)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シェイクスピア / ホメーロス / マーロウ / 認知 / ポルトゥス / アルドゥス / ジュネーヴァ / 印刷本 |
研究実績の概要 |
2016年度は認知・家族再会のテーマを中心としてルネサンス詩・芸術における神話創作の調査を行なった。特にホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』におけるオデュッセウス帰還と家族再会・認知の記述の、16世紀イタリア・フランス・イギリスにおけるそれぞれの受容の状況について比較・考察を始めた。この問題を考究する上で特に重要と思われる歴史的事実として、次の2つの出来事に注目すべきであると推定した。その一つはヴェネツィアの人文主義印刷業者アルドゥス・マヌティウスが1500年前後に行った印刷本古典テキストの出版であり、もう一つは本研究課題の主要テーマとして設定しているクレタ出身の古典学者フランキスクス・ポルトゥスがテキスト編纂と翻訳に関わった、ジュネーヴァの人文主義印刷業者ヨハンネス・クリスピヌスによる小型本対訳ギリシア詩の出版である。実際に行った調査内容としては、16世紀初頭におけるホメーロス、特に『オデュッセイア』、の受容例としてイタリア絵画・壁画にみられる物語描写法の検討がその一つであり、さらにクリスピヌス印刷工房出版のホメーロス叙事詩ラテン語訳テキストとマーロウ、シェイクスピアのテキストとを比較したのがもう一つである。後者の成果については、 2016年8月29日に東北大学において開催された第41回宗教とテューダー朝演劇の成立研究会において、本研究代表者が「再会と認知のナラティブ ー『オデュッセイア』の受容とシェイクスピア」と題して口頭で研究発表を行った。2017年度以降はクリスピヌス/ポルトゥスの廉価普及版テクストを中心に、考察対象をさらに広げて16世紀英国詩人の神話創作へのラテン語対訳ギリシア叙事詩の影響の状況をさらに調査する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
普及型対訳テキストのホメーロスとマーロウ、シェイクスピアの比較検証はほぼ順調に進んでいるが、2016年度の調査の過程で、フランキスクス・ポルトゥスの業績・影響の他に、それに先行するアルドゥス・マヌティウスの影響も考慮する必要があると判断されたため、その分、研究調査対象となる資料の幅が当初の計画より広くなったので。エドマンド・スペンサー、ベン・ジョンソン等との比較にはまだ検証すべき余地が多く残っている。
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今後の研究の推進方策 |
1500年代前半のルネサンス文化におけるアルドゥス版ギリシア詩テキストの受容の状況を、絵画・壁画作品等も調査対象に含めて考察し、1500年代後半におけるクリスピヌス版ギリシア詩テキストの受容状況を前者と比較しつつつ、16世紀におけるギリシア詩受容と神話創作の問題を可能な限り歴史的に記述する方向で研究を推進する。また神話創作者として調査対象の英国詩人の枠を順次広げて行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
入手を予定した研究資料(シェイクスピア詩関係の研究所)の刊行が遅れたため購入機会を逸したので、そのために確保してあった分の予算が未使用になってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の資料が2017年度中に刊行される見込みなので、出版され次第購入する計画である。
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