研究課題/領域番号 |
16K02451
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
宮原 一成 山口大学, 人文学部, 教授 (10243875)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 読む行為 / 贈与論 |
研究実績の概要 |
本研究の端緒と位置づけたい論考をまとめ、平成28年6月27日から29日までの日程で開催された"What Happens Now: 21st Century Writing in English"第4回国際学術会議(於:英国リンカン大学)の最終日に、"The Meaning of Reading in A Tale for the Time Being: Gift Exchange (Un-)deconstructed"と題して英語による口頭発表を行った。A Tale for the Time Beingという小説を題材にして、読むという行為を、モース的アプローチとデリダ的アプローチという2通りの「贈与」概念によって捉える、という試みを提唱した本研究は、おおむね好評を得ることができ、研究の方向性の正しさが確認できた。 同年11月19日・20日には日本文体論学会の年次大会に参加、文体論や物語論の研究方法論に関する新しい知見を吸収した。 また、上記の英語論考の成果も部分的に取り入れつつ、さらに贈与に関する議論を広汎にした日本語論文「『あるときの物語』における純粋贈与志向」を執筆した。これは、米国とカナダ両国の国籍をもつ現代女性作家ルース・オゼキの長編小説に見られる種々の《テクストのやりとり》および《読む行為》を、さまざまな贈与論者の議論枠に当てはめつつ解釈した研究である。本小説は西洋文学としては珍しく、道元の禅思想を取りこんだ物語であるが、その禅思想が「純粋贈与」の概念において東洋哲学と西洋哲学を出会わせている点を、本論考では重視して論じた。この論考は平成28年12月に、研究紀要『英語と英米文学』誌上で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を本格的に推進するのに、まず研究の方向性の妥当性を確認するパイロット的な位置づけの口頭発表を国際学術会議において行う予定にしていたが、これは計画通りに実行できた。また、日本語による論文も年度内に一本執筆・発表したが、これもほぼスケジュールどおりである。その論文の内容も、あるひとつの作品の検討を通して、各種贈与論者の主張を概観して一種のマッピングを行うという企図を、ほぼ実現するものとなった。 研究図書の購入が、廉価版の刊行を待つなどしたため予定していたペースよりやや遅くなった、という部分はあるものの、ほぼ当初計画の通りに研究が進行した、と判断できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
28年度後半からは、研究の理論的なアプローチと個別作品による具体的アプローチの両方を展開し始めている。前者については、29年度中にまずは口頭発表を行うべく、準備中である。後者については、二、三の作品について精読作業を進めているところである。これも、年度内には研究論文あるいは口頭研究発表のかたちにまとめる予定である。 29年度も、当初計画から大きくずれることなく研究を進められる見通しであるが、必要に応じて贈与論の専門家に助言を求めたいと考えている。幸い、研究代表者が所属する学部に、贈与論に造詣の深い文化人類学者が29年4月に赴任した。今後相談に乗っていただこうと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
現代文学関連文献や贈与論関連文献の購入について、軽装版の発行を待ったり購入のペースを調節したりしたため、当初計画ほど今年度は費用がかからなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
現代文学関連図書や現代思想関連(贈与論に隣接する分野も含めて)の図書の購入にあてる予定である。
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