研究課題/領域番号 |
16K02453
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大島 久雄 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (80203769)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | シェイクスピア / ヴィクトリア朝 / 視覚的受容 / 帝国的眼差し / シェイクスピア崇拝 / シェイクスピア俳優 |
研究実績の概要 |
本年は初年度にあたり、従来から行い,本研究の基盤となる「シェイクスピア受容のインターテクスチュアリティ」研究のケーススタディを,英国ストラットフォード・アポン・エイヴォンとロンドンで開催されたシェイクスピア没後400年記念シェイクスピア国際学会における『リア王』セミナーにおいて発表し,視覚的受容をインターテクスチュアリティ受容批評の中に組み込みながらその方法論と研究成果を国際的な場で検証した。 シェイクスピア研究所においてシェイクスピア俳優舞台図像の予備調査を行い,公演プログラムや絵画や挿絵等の画像資料からヴィクトリア朝シェイクスピア受容について調査し、シェイクスピア崇拝が誕生し、シェイクスピアが国家的アイコンになっていく中で,視覚的要素が,ロンドン万国博覧会等にも見られる帝国主義的眼差しの発達とともにこの時代のシェイクスピア受容の重要な一部となることを確認した。 視覚的受容の重要性は今も変わらず,ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーや,グローブ座,新設エリザベス朝屋内劇場型サム・ウォナメーカー劇場でのシェイクスピア公演でも体感したが、特にグローブ座やサム・ウォナメーカー劇場を会場とする基調講演からもシェイクスピア演劇における視聴覚的要素の重要性を再確認した。このような知見は、ロンドン・オリンピック開催時のグローブ座シェイクスピア多言語上演を取りあげた研究書の書評の中に活かすことができた。オリンピックは,万国博覧会とともに,帝国主義的眼差しが強まる国家的イベントであり,多様な言語・文化を背景としたシェイクスピア劇公演を集めた"Globe to Globe"プロジェクトにはヴィクトリア朝シェイクスピア受容にも見られる帝国主義的眼差しが根底に有る。 研究成果社会還元として市民対象公開講座「シェイクスピア絵画の世界」(10月22日)を開催し,受講者アンケートによると好評を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストラットフォード・アポン・エイヴォンとロンドンで開催されたシェイクスピア没後四百年記念シェイクスピア国際学会での『リア王』セミナーにおいて研究発表を行い、シェイクスピア研究所においてヴィクトリア朝シェイクスピア俳優・上演に関する画像資料について予備調査を行うことにより今後の調査の方向性を明確化することができた。 大英図書館,ジョン・ソーン博物館、ストラットフォードのシェイクスピア関連博物館の没後四百年記念展,国立肖像美術館、テート美術館等においてもシェイクスピア受容研究に関する資料調査・収集を行い、視覚的な要素がこの時期のシェイクスピア受容において果たした重要な役割を確認することができた。 シェイクスピア俳優の伝統とシェイクスピア崇拝とは密接に関係している。シェイクスピア崇拝の起源ともなった百年祭(生誕・没後)に今回自ら参加し,百年祭が持つシェイクスピア受容形成に果たす重要な役割を身を以て発見したことは何よりの収穫であった。学会会場となったシェイクスピア劇場でのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー公演やグローブ座やサム・ウォナメーカー劇場におけるシェイクスピア公演・基調講演・セミナーからも視覚的受容に関する貴重な知見が得られた。国際学会と受容関連調査の成果は,九州シェイクスピア研究会において発表し、ロンドン・オリンピック開催時のシェイクスピア多言語上演プロジェクト "Globe to Globe" を取りあげた研究書の書評執筆においても活かすことができた。 昨年度科研費研究の研究成果は、学術論文として執筆している段階だが、今年度10月開催予定の関連学会において研究発表を行う予定であり,その後、学会誌への投稿を行う。研究成果の社会還元としては,市民対象公開講座「シェイクスピア絵画の世界」(10月22日)を計画通りに開催し,受講者アンケートによると好評を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究に関しては,平成28年度に実施したシェイクスピア視覚的受容資料調査・収集の成果を踏まえて、インターテクスチュアリティの観点からヴィクトリア朝シェイクスピア視覚的受容を体系的に分析する。特にシェイクスピア俳優の伝統とシェイクスピア崇拝の関係に注目し、シェイクスピア絵画と歴史主義的スペクタクル重視の演出を眼差しの政治学の観点から関連付けながら分析することによって、視覚がシェイクスピア受容において果たした役割をより具体的に明確化する。 シェイクスピア視覚的受容に関係する文献・画像資料の収集と分析を継続し、特に個々のシェイクスピア俳優の視覚的な演技・演出のスタイルを取りあげながら、シェイクスピア劇がどのように身体化され、舞台で具象化されたのかを明らかにしていく。今年度は、チャールズ・キーン演出『マクベス』(1853)に見られる帝国主義的な眼差しや歴史絵画性がその後のシェイクスピア俳優達の演技・上演様式にどのように影響を与えたのかを検討しつつ,デイヴィッド・ギャリックにまで遡りながらシェイクスピア俳優伝統形成における視覚的受容の役割とそのインターテクスチュアリティを明らかにする。電子書籍アーカイブ調査により,百年祭,シェイクスピア・ギャラリー,万国博覧会等、視覚の政治学に直結する社会的・歴史的な背景に関する調査も深めるとともに,ヴィクトリア朝シェイクスピア俳優・上演に関する貴重な一次資料の宝庫であるフォルジャー・シェイクスピア・ライブラリー(米国ワシントン)でシェイクスピア俳優・上演関連図像の調査と分析を行う。 前年度の研究成果と今年度の調査・分析の結果を中心に論文化し、10月開催予定の関連国内学会において研究発表を行い、学術論文として学会誌に投稿し,次年度の研究へと発展させていく。 11月には研究成果社会還元のため公開講座「名優で楽しむシェイクスピア」を開催する。
|