研究課題/領域番号 |
16K02455
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研究機関 | 山形県立保健医療大学 |
研究代表者 |
梶 理和子 山形県立保健医療大学, 保健医療学部, 准教授 (60299790)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感受性 / センス / テイスト / 身体性 / 精神性 / 消費文化 / モラル / ジェンダー |
研究実績の概要 |
3年計画の中間にあたる平成29年度は、前年度におこなった資料収集および調査研究、また研究会等において情報、専門知識の提供を受けたことを踏まえて、資料を補いながらテクスト分析をより深くおこない、長い18世紀の女性表象におけるセンスとテイストの変容、精神的・身体的感受性に関する考察をまとめた。具体的には以下の3つの観点から検証をおこない、外部研究者との交流を通じて研究成果を客観的、批判的に検討し、最終年度の研究総括に向けての方向性と課題を確認した。 (1) 感受性とリバティニズムの関係性という観点からのテクスト分析。感受性の肉体・精神の二面性とリバティニズムの性的・非性的言説の関係に注目するとともに、17世紀後半の原子論、エピキュリアニズムに留意し、女性作家のテクスト/女性を題材としたテクストと関連づけて整理し、感受性とセンスの関係性、感受性とテイストの関係性についての研究の基盤づくりをおこなった。 (2) 感受性とセンスの関係性という観点からのテクスト分析。17世紀後半から18世紀向かって英国社会が大きく変わる時期における女性表象から、センスの意味がどのように生成、変化していたかをたどり、それが感受性の問題とどのように結びつくかを考察した。文学作品のみならず、科学的・宗教的言説等にも注目し、センスの意味変化と感受性の形成との関係を明らかにした。 (3) 感受性とテイストの関係性という観点からのテクスト分析。テイストの意味の生成・変化の形成過程についても女性表象を対象に、性的快楽の享受という含意から、美学的な審美眼や道徳的な分別等への意味の変化に注目して、18世紀のグローバル化に伴う消費社会における、(女性の)所有欲、真価を見極める目、節度ある振る舞いに関する言説を、その文化的・経済的背景を考慮に入れて分析することで、感受性の形成に関する研究との関係を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感受性の形成について、前年度に確認したアダム・スミスやデヴィッド・ヒュームらの議論を踏まえ、17世紀中頃から18世紀中頃にかけて発展する消費文化にうかがえる欲望とモラルの問題について、17世紀後半の演劇作品に焦点を当てて検証した。また、当時の劇場において表象された、さまざまな身体的感覚や、知的・美的理解力、洞察力といった意味のセンス、味覚や性的快楽にかかわる感覚や、嗜好、審美眼といった意味のテイストを、科学的、政治的、宗教的言説等と照らし合わせながら考察した。これらの成果をそれぞれ論文のかたちで発表し、グローバル化を背景とした消費文化、新たな社会や政体が登場、発展するなかで形成される、感受性(の変容)の一端を明らかにできたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまで得られた成果・中間総括を踏まえ、センスとテイストがもつ多様性から、感受性の系譜を再考し、女性作家研究に新しい解釈を試みる。センスとテイストに関する具体的なテクスト分析を加え、前年度の感受性をめぐるテクスト分析との綿密なすりあわせをおこなう。同時に、不足するリサーチ、資料等を補い、感受性とリバティニズムの関係をセンスとテイストという観点から総括する。研究会での議論を経て、研究、論文発表といったかたちで成果報告をおこなう。 センスとテイストに関するテクスト分析については、文学テクスト上の表象分析と、感受性やリバティニズムとの関係分析、実在の女性表象の分析、感受性やリバティニズムとの関係分析をおこなう。具体的には、Aphra Behn、Elizabeth Griffith等の女性作家とその演劇作品、そしてDuchess of Portsmouthや Duchess of Mazarin等のフランス出身の国王の愛人たちのサロンや、彼女たちに対する諷刺(詩や演劇)等を対象に検証する。 以上の作業によって次の3つの考察、検証をおこなう。(1) 感受性の形成に関する研究において、肉体性と精神性の問題を、多様な女性表象から再考することで、肉体性を再定義する。(2) センスとテイストの意味の生成・変化の分析によって、肉体性と精神性との関係性を見直し、それに伴う感受性の起源を再考する。(3) 公共圏/親密圏/私的空間における女性の役割の再配分の可能性を指摘するとともに、感受性がそこで果たした役割を再考・再確認する。 本研究を通じ、長い18世紀における女性の肉体と精神という観点から、センスとテイストの意味変化を踏まえた上で、感受性の形成過程の見直しを行うことが本研究の意義であり、またそれは、現代における、ジェンダー/フェミニズム研究の問題とも密接に結びつくと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)成果発表にかかわる英文校閲等を、年度内に依頼できなかったため。 (使用計画)英文校閲およびデータ整理といった人件費・謝金として使用する予定である。
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