本研究は、感受性(sensibility)の形成に関する近年の研究を、長い18世紀の女性表象にまつわるセンス(sense)とテイスト(taste)の変容という観点から再考するために、リバティニズムと感受性、センス(肉体的感覚・判断力)と感受性、テイスト(味覚・性的快楽[の経験])・審美眼)と感受性との関係にかかわる言説の分析をおこなった。それらの中間総括および成果を踏まえ、最終年度においては、グローバル化する消費社会を背景とする、王政復古演劇のエロティックな女性の身体性から18世紀小説の女性の精神性への移行を、感受性(の形成)の問題と接続することで、従来の女性作家研究の再考を試みた。 具体的には、(1) 感受性の形成に関する研究において、身体性と精神性の問題を多様な女性表象から再考することで、身体性(の意味変容)を再定義し、(2) センスとテイストの意味の生成・変化の分析によって、身体性と精神性との関係性を見直し、それに伴う感受性の起源を再考した。そして、(3) 公共圏/親密圏/私的空間における女性の役割の再配分の可能性を探り、感受性がそこで果たした役割を再考・再確認した。 そこで、17世紀から近代までの感受性の系譜を検証する研究会での成果報告・議論を踏まえ、国内学会のシンポジウムにて成果発表をおこなった。研究会およびシンポジウムの議論から、1688年のいわゆる「名誉革命」を再評価する必要性が明確となった。今後の研究の方向性として、王政復古期イングランドをモダニティの観点から再考し、18世紀にかけての文学ジャンルの流行・衰退の過程と感受性との関係を再検証することが確認された。
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