研究課題/領域番号 |
16K02457
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
山本 薫 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (50347431)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジョウゼフ・コンラッド / ルネ・マグリット / 狂気 / 赦し / ジャック・デリダ / 共同体 / 和解 |
研究実績の概要 |
ジョウゼフ・コンラッドの第一作、『オールメイヤーの阿房宮』(Almayer's Folly)における主人公オールメイヤーの狂気(folie)の問題を、東洋植民地における白人としての個人の病理として考えるのではなく、ジャック・デリダのいう「主権なき赦し」としての「狂気」、つまり、和解の問題ととらえることによって、現代社会の緊急の課題である異文化・異宗教間の和解に通じる新しい共同性の問題として考察した。研究計画に挙げた通り、その成果の一部は、2016年にポーランドで開催されたコンラッド学会第5回国際大会において、'Almayer's Folie: Madness in Conrad and Magritte'と題して発表した。19世紀英国小説であるコンラッドの『オールメイヤーの阿房宮』における西洋と東洋、キリスト教とイスラム教の間の赦しと和解という複雑で難しい問題を、20世紀のシュールレアリストの思索的画家マグリットの絵画、La Folie Almayerとの比較し、英語のfolly(愚行)という意味だけでなく、フランス語のfolie(狂気)という観点から論じたことによって、まず、19世紀末の一英国小説を論じるコンテクストや枠組みから出て、ヨーロッパ大陸的な視野の下に和解を置いて考え、個人の問題ではなく、複数の人間―共同体―の問題として再検討した。また、意味の特定や解釈を拒むマグリットの1951年の絵画であるLa Folie Almayerを引き合いに出すことによって、議論を時間的にも19世紀英国の植民地の問題に限定することなく、現代の時事問題へと開くことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マグリットの絵画とコンラッド文学の関係性を探る過程で、マグリット以外の芸術家、絵画以外の芸術に対してコンラッドが関心を寄せていることがあきらかになり、また、コンラッドの初期作品で試されているさまざまな技巧がさらに洗練された形で凝縮されたテクストである『陰影線』に、コンラッドの芸術観や文学と他芸術の関係性についての考えが複雑な形で投影されていることがわかった。この研究の成果は、2017年にフランスのリモージュ大学で開催される仏伊合同コンラッド学会において発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
他の芸術家との比較でコンラッドの芸術観を考える際に、コンラッド個人の芸術観、またコンラッドと比較される個々の作家や芸術家の作品や芸術観を、「芸術」論や「美学」論という大きなくくりの中で理解する必要性を改めて感じた。よって、現在、へーゲルの美学論、ジャック・デリダの絵画論、ジャン=リュック・ナンシーの芸術論をたよりにコンラッドの芸術観を、詩人シャルル・ボードレールやリヒャルト・ワーグナーとの影響関係を探りつつ、あらためて考察している。その成果の一端は、2017年にフランスのリモージュ大学で開催される仏伊合同コンラッド学会において発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の国際学会出席については、学内競争資金を獲得することができたため、科研費からの支出が抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度8月~10月に英国への調査旅行を予定しており、使用する予定。
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