研究課題/領域番号 |
16K02457
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
山本 薫 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (50347431)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジョウゼフ・コンラッド / ジャン=リュック・ナンシー / 美学 / 笑い / 視覚 / 聴覚 / 声 / 物語 |
研究実績の概要 |
具体的内容:フランスのリモージュ大学で開催されたジョウゼフ・コンラッド学会(テーマ:「テクストと理論の間:トランスナショナル・コンラッド」”Between Texts and Theory: Transnational Conrad')にて、「バーンズの狂気と笑い:諸芸術間の『陰影線』」('Burns' Burst of Laughter: The Shadow-Line between the Arts')と題して研究発表を行い、フロアからさまざまな示唆に富むコメントをいただき、好評を得た。学会参加者からコミックという新たな媒体を加えることで、ヨーロッパの哲学における美学理論を頼りに、今後も絵やイメージと言葉の関係をさらに追究していくきっかけをいただき、シンポジウムを企画することとなった。
意義、重要性:作者コンラッドの分身である「私」という語り手の「告白」として長らく読まれてきた『陰影線』における「狂人」バーンズ航海士の常軌を逸した「笑い」声を、これまで言われてきたような「狂人」の単なるたわごととしてではなく、視覚と聴覚という感覚の交差する場としてとらえ直巣という、これまでにない全く新しい読みを提供した。このように、ジャン・リュック=ナンシーやジャック・デリダ等のヨーロッパの美学理論を用いることにより、コンラッドが物語文学だけに閉じこもるのではなく、物語文学と声や音、「音楽」という諸芸術の交渉の契機を『陰影線』の笑いに託したことを明らかにしたわけであるが、コンラッド学会でこれは初めての試みであり、文学と他の芸術を接続する大胆な試みとして評価された。こうして、平成28年度のコンラッドとマグリットにおける「狂気」のテーマを芸術間の交渉という観点から引き続き追うことでさらに深めることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回フランス、リモージュのコンラッド学会で、コンラッドの『陰影線』における「狂った笑い」をヨーロッパの哲学における美学理論を用いて論じたことで、さらに文学と音楽、絵画、彫刻という他の芸術間の交渉の問題を深めることができた。また、この発表を通して、今度は文学とコミックという文学と他メディアとの間の関係で考えるという視座を他の学会参加者からいただき、研究の射程を広げる可能性に思い至った。
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今後の研究の推進方策 |
今回の発表は、文学と音楽、絵画という他の諸芸術の間の関係性についての発表であったが、学会参加者との議論から、上述のように、文学とコミックという他メディアとの間の関係で考えるという視座を得、研究の射程を広げる可能性に思い至った。よって、コミックという新たな媒体を加えることで、ヨーロッパの哲学における美学理論を頼りに、今後も絵やイメージと言葉の関係をさらに追究していく契機となった。このテーマの発表の機会として、現在コミック、文学、映画、視覚芸術についてのシンポジウムを計画中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランス、リモージュでの学会参加・移動費を含む3か月のイギリスへの調査旅行経費がかさむと思われたため、一般研究費も宿泊費等に充てたところ、科研費に残額が生じたから。
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