研究課題/領域番号 |
16K02461
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
不破 有理 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (60156982)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Sir Thomas Malory / _Morte Darthur_ / 『アーサー王の死』 / 夏目漱石 / 薤露行 / 19世紀出版史 / Lady of Shalott / アーサー王物語 |
研究実績の概要 |
本研究はサー・トマス・マロリー『アーサー王の死』のテクストの出版史と絡めながらアーサー王伝説の復活の多様な様相を辿り、分析する試みである。2018年4月にはヘブライ大学ジョン・ホイットマン教授からの依頼によってヘブライ大学英文学科の招聘によるアルフレッド・テニスンの “Lady of Shalott”について共同セミナーを行った。筆者は"Ladies of Shalott in Soseki’s Multicultural Labyrinth, Kairo-ko (1905)”と題して、夏目漱石の「薤露行」におけるアーサー王伝説と漢学と明治の芸能の影響を考察し討議を行った。本発表によって、これまでのマロリーのテクスト出版と受容の研究を広げ、日本における受容史の観点から論じる可能性が開かれた。2019年3月には「日本初のアーサー王物語:漱石の「薤露行」とシャロットの女」と題した論考を発表した。テニスンは19世紀のアーサー王伝説復活の牽引者としても知られるが、ことに詩「シャロットの女」の影響は文学にとどまらず、視覚芸術にも及んでおり、今後さらにこの分野の研究を進めていきたい。 2018年10月には同志社大学英文学会年次大会の招待講演において、アーサー王をめぐる伝承を導入として、伝説の変容とサー・トマス・マロリー『アーサー王の死』のテクスト改変の歴史を講じた。特に1816年版のテクストをめぐる出版競争と判型の関連について講演をおこなった。講演原稿を発展させ、『アーサー王の死』の1868年改竄版テクストであるグローブ版についてまとめた。本論は作者・編集者・出版者・読者がどのようにテクストを改変し原作者の意図とは異なるテクストを成立させうるかという点についての論考で、2018年12月刊行の『書物学』(勉誠出版)に掲載され、書評でも取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘブライ大学ジョン・ホイットマン教授とのアルフレッド・テニスンの “Lady of Shalott”共同セミナーMirroring the Mystery: The Lady of Shalott in Britain and Japanでは、ホイットマン教授は19世紀英国絵画John Waterhouseの三作品の分析から“Lady of Shalott”を論じ、筆者は夏目漱石の「薤露行」におけるアーサー王伝説と漢学および芸能の影響を考察し発表できた。これによって、本研究のあらたな展開が生まれ、2018年度には日本語による論考をまとめ出版することができた。さらに今後、さらに論考を深め、研究成果をまとめて2020年の国際学会での英語による口頭発表および出版を計画している。 また、1816年版『アーサー王の死』のテクスト研究とその出版をめぐる出版人たちの状況と19世紀におけるサー・トマス・マロリーの受容史を絡める論考へ発展させる可能性が見出せたため。
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今後の研究の推進方策 |
1.2018年度にまとめた夏目漱石の「薤露行」に論考をさらに明治期におけるテニスンやマロリーの受容から考察し、英語による口頭発表と論文執筆を行いたい。
2.日本ケルト学会のシンポジウムにおいて、マシュー・アーノルドのケルト観に関する発表依頼をされたので、19世紀におけるトマス・マロリーの人物像とアーサー王物語への評価の変化の背景を探る一助としたい。
3.2017年に刊行した"Paving the Way for the Arthurian Revival: William Caxton and Sir Thomas Malory’s King Arthur in the Eighteenth Century”をマロリーの19世紀テキストの出版競争についての論文に接続させ、さらに深めて著作へまとめられるように研究を進めたい。
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