研究課題/領域番号 |
16K02464
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
兼武 道子 中央大学, 文学部, 教授 (30338644)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 古典修辞学 / ヒュー・ブレア / デリダ / グラマトロジー / 『パイドロス』 / ヴィクトリアン・ヘレニズム |
研究実績の概要 |
2017年度は、前年度に行った研究基盤の整備に基づき、ヒュー・ブレアの修辞学とデリダのグラマトロジーの連携可能性について、より具体的な検討を行った。デリダは古典修辞学を形而上学から派生した伝統として捉えているが、ブレアの修辞学理論は必ずしも「意味」を志向してはいないこと、また形而上学的な思考を相対化する視点を持っていることを研究の結果明らかにした。これを原稿にまとめ、2017年7月4日に英国イースト・アングリア大学で開催されたヨーロッパ・レトリック学会において学会発表を行った。発表は好意的に受け止められたようで、ブレアの修辞学理論やプラトンの『パイドロス』について有益なフィードバックも得ることができ、各国の修辞学研究者との交流も行って、実り多い学会参加となった。上記の論をさらに発展させ、次につなげてゆくための貴重なステップとなった。 修辞学研究を行ううちに、18世紀以降のイギリスにおけるギリシア古典の教養のあり方、特に女性による古典ギリシア語の習得やギリシア古典文学の受容の問題に関心が広がってきた。古典語の教養があった18・19世紀イギリスの女性詩人の作品を集中的に読んでいる。また、ヴィクトリアン・ヘレニズムのイデオロギーについて文献を読んで知識を深め、ジェンダーの観点から考察を行っている。研究の成果として、ヴァージニア・ウルフの『ジェイコブの部屋』とヴィクトリアン・ヘレニズムについて論文を書いた。2018年度中に出版予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒュー・ブレアの修辞学とデリダのグラマトロジーについての研究は、学会発表の形で成果を上げることができた。今後は論をさらに充実させて論文を発表したい。2017年度は研究が新たな展開を見せ、18世紀以降のイギリスにおける古典ギリシア文芸の受容という枠組みの中で、ヴィクトリアン・ヘレニズムとジェンダーについて関心が広がった。その結果、ブレアとグラマトロジーについての研究時間の一部を振り向ける必要が生じたが、今後の長期的な研究に結びついてゆく生産的な展開なので、全体としてみれば、研究はよい進捗状況にある。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度はプラトンとデリダについての文献を集めて集中的に読み、修辞学の問題に関するデリダのプラトン読解を詳しく再検討する予定である。特に、ギリシアにおける古典修辞学の成立の過程、プラトンのディアレクティケーとイソクラテスの弁論術の関係や、「声」と「書かれた声」の関係などを中心的な関心としてプラトンの『パイドロス』を読み、そこから導かれた前提に基づいてデリダによる古典修辞学の表象を問い直したい。最終的には、形而上学批判としての古典修辞学はグラマトロジーと連携する可能性があることについて論文を執筆したい。 これと並行して、18世紀以降のイギリスにおけるギリシア古典受容についても理解を深めたい。特に、18・19世紀の女性古典学者や、ヴィクトリアン・ヘレニズムとジェンダーの問題をさらに考えたい。具体的には、エリザベス・カーターによる翻訳と詩作、オーガスタ・ウェブスターによるギリシア悲劇の翻訳と翻案、女性と高等教育の問題、ジェーン・ハリソンとヴァージニア・ウルフの関係や、ウルフのギリシア語研究ノート、ウルフのギリシア旅行から生まれた作品などについても考察を深めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だったコンピューターと周辺機器を買わなかったため、若干の繰越金が出た。2018年度には購入予定である。また2018年度以降は、書籍や資料の引き続きの購入に加えて、エリザベス・カーターの詩を集めたり、ヴァージニア・ウルフのギリシア語研究ノートを読んだりするためにイギリスに渡航する必要があるため、支出も増えることが予想される。
|