研究課題/領域番号 |
16K02464
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
兼武 道子 中央大学, 文学部, 教授 (30338644)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | パイドロス / グラマトロジー / 文字 / 古代ギリシアとイギリス / 19世紀女性詩人 |
研究実績の概要 |
2019年度はプラトン『パイドロス』の読解を深め、テキスト及び先行研究の文脈にデリダの「プラトンのパルマケイアー」を置いて論点を整理・同定し、批評的な読解を積み上げて考察結果を論文にまとめることを目指して研究を進めた。『パイドロス』の先行研究を、古典的なものから最近の雑誌論文まで読み、デリダとの関連で具体的に論じる価値がありそうな話題をいくつか見つけた。また、古代ギリシアにおけるアルファベットの導入と伝播、文字文化の発生と継承・発展について、歴史学、文化人類学、文化史の観点から書かれた新旧の研究書を読み、『パイドロス』にみられる文字批判について考えを深めた。並行して、数年前から学んでいる古典ギリシア語についても習得を続け、テキストや研究書の読解に役立てている。これらの活動によって、論文の論点と書くときのアプローチ、また論の筋道とおおよその着地点が定まったが、研究を進めるうちに、イソクラテスの作品と研究についてもっとよく知るようになれば、研究がさらに深まり、論の説得力も増すであろうことが従来感じていた以上に明らかとなってきた。 しかしイソクラテスを研究の範囲に入れるためは、さらに時間を必要とする。そこで、完成時の姿がある程度見えてきた論文執筆は一旦置いて、成果がより早く出る研究分野に2019年度の残り3分の1をあてることにした。その研究分野は、18世紀以降のイギリスにおける古典ギリシア文芸の受容という広い研究企図の中の、19世紀から20世紀にかけての女性文学者を対象とする。特に2019年度は、19世紀の詩人オーガスタ・ウェブスターを扱うことにした。劇的独白「キルケー」と「アテネ のメデイア」を取り上げ、これらの詩が、ファム・ファタールや男性を待つ乙女、家庭の天使などのヴィクトリア時代の類型的な女性表象に対する効果的な批評になっていることについて、論文を執筆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は『パイドロス』と「プラトンのパルマケイアー」について論文を仕上げるはずだったが、完成しなかったので、研究の進度は計画よりも若干遅れている。その一方で、19・20世紀女性文学者によるギリシア古典受容についての研究は、予想以上の進展を見せ、成果も出てきている。
|
今後の研究の推進方策 |
『パイドロス』とグラマトロジーについての論文を仕上げたい。イソクラテスについての研究を盛り込むことにしたので、成果が出るまでにさらに時間がかかる場合は、研究を継続しながら、それと並行して、19世紀以降の女性文学者とギリシア古典のテーマについて研究を進め、順次成果を出してゆきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、勤務先の制度により、特別研究期間として在宅での研究が認められ、そのための研究費も支給されたため、いただいた科研費を使い切ることができなかった。 オーガスタ・ウェブスターを含む19世紀女性詩人の著作は日本では手に入らないものも多いため、今年度以降、新型コロナウイルス感染症の状況によっては、予定していた研究出張も実現したい。
|