研究実績の概要 |
2023年度は、これまでの年度と同じく、2つの領域で研究を行なった。 Hugh Blair, _Lectures on Rhetoric and Belles Lettres_の文献学的な研究を遂行した。この著作は、18世紀後半から19世紀にかけてのイギリスとアメリカにおいて、古典修辞学の研究書としては異例なほど盛んに版(エディション)を重ねた。同時代の修辞学者George CampbellやThomas Sheridanなどの修辞学書の出版状況と比べると、Blairの著作がいかに多くの読者を獲得したかは明らかである。語学系の著作としては、唯一Samuel Johnsonの英語辞書に比肩しうるほどであった。これらのエディションは、豪華版や廉価版などの様々な形態で出版された。また、エディションのみならず、縮尺版や学校の教科書版、練習問題がつけられた自習用教科書などの形にも編集・出版された。さらに、当時盛んになってきたアンソロジー類にもブレアの文体論や趣味論が抜粋されて掲載された。特に注目すべきなのは、Lindley Murrayのアンソロジーである。アンソロジーは、読書の形を大きく変えたと言われ、公共の場での読書という形態から、個人が趣味の涵養のために読むという実践への変化の潮流を形作ったという。もっとも影響力のあったMurrayのアンソロジーにおいて盛んに引用されることによって、ブレアの修辞学が、文学の受容の理論として幅広く受け入れられるようになったことは特筆すべき現象である。この趣旨の論文を書いた。 ギリシア文芸の女性作家による受容の研究を行なった。今年度は、現代英語圏女性小説家による作品を読んだ。具体的には、Pat Barker、Madeline Miller、Elizabeth Cook、Margaret Atwood、Jennifer Saintの小説である。
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