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2018 年度 実施状況報告書

英国スチュアート朝の演劇舞台 ─その衣装・演出と商業劇団の係わり─

研究課題

研究課題/領域番号 16K02468
研究機関東京理科大学

研究代表者

小林 酉子  東京理科大学, 理工学部教養, 教授 (60277283)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2020-03-31
キーワード英国ルネサンス演劇 / 舞台衣装 / 宮廷マスク / ジェイムズ朝 / スチュアート朝 / 都市型道化
研究実績の概要

本研究は、スチュアート朝の王室饗宴と、これに関与し、王室メンバーのお抱えとなった劇団が民間劇場でどのような劇をどのような衣装・演出で演じていたのか、その実態と劇場閉鎖に至る経緯・関連性を歴史的に明らかにすることを目指している。
プロの俳優たちは、市井の劇場で芝居を上演するほか、宮廷に召されて御前公演も行っていた。同一劇団が商業演劇と宮廷演劇に同時的に関与したことは、双方の演劇舞台での演出に必然的に共通性を生じさせた。
平成30年度は、魔女や亡霊などの特殊な役柄の衣装が宮廷饗宴で、あるいは民間劇場でどのように表現されていたのか、劇作品、劇場関係史料、宮廷マスクデザイン画に拠って検証し、国際学会で研究発表の後、学会誌に論文発表を行った。宮廷と民間双方の舞台衣装や小道具を横断的に検討し、商業舞台での造型を明らかにした。
一方、経済的に繁栄する都市で、観劇は娯楽の筆頭であり、特に入場料の高い室内劇場は富裕層の客を集めた。ジェイムズ朝では、騎士や貴族の位を金で買うことが可能となり、成り上がり者が首都ロンドンに目立つようになった。このような社会的風潮を反映し、劇場には、それまでになかったタイプの道化役が出現した。16世紀後半の道化衣装の特徴は、田舎風の野暮な格好や破れた服などであったが、17世紀初頭以降は、にわか仕立てで都会の洒落者を気取る成り上がり、いわば都市型道化が舞台に登場した。上辺を飾って競い合う皮相な風潮は、王侯貴族社会、市民社会に浸透し、都市型道化はそのような社会を照射するものであったことを明らかにし、論文発表を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は、王室メンバーのお抱えとなった劇団が民間劇場でどのような劇をどのような衣装・演出で演じていたのか、その実態を明らかにすること、また1642年の劇場閉鎖に至るまでの経緯・関連性を歴史的に明らかにすることを目指している。
平成30年度は、上記のうち、前者の目的に沿って、スチュアート朝初期の商業劇団が宮廷と市井を行き来しつつ、時代の演劇を造り上げていたことを実証した。劇団は宮廷での演出や衣装を商業劇場に持ち帰り、特に富裕層が集まる室内劇場で上演して観客を集めた。宮廷マスクと商業演劇は、特に舞台衣装や装飾小道具でかなりの共通性を持っていたといえる。
また、17世紀初頭に新たに登場した都市型道化像については、当時の経済的、社会的背景から、その衣装と演劇的特性を論じた。チューダー朝からスチュアート朝を通して、英国の商業演劇の画像は殆ど残されておらず、実際の舞台衣装や演出に関しては不明の点が多いが、発表論文では戯曲本文のほか、文献史料から商業舞台での造型を明らかにした。
劇団は宮廷饗宴に関わることで、その演出や衣装デザインを商業劇場で利用しただけでなく、宮廷社会を主題とする芝居を上演し、市民たちにそれまで閉ざされていた内幕を暴露する役割をも担った。これは、宮廷の腐敗に対して市民の批判精神を醸成し、清教徒革命の底流を形作ることにつながっていった。最終年度となる平成31年は、上述の目的の後者について、研究成果をまとめる予定で、研究計画全体は概ね、順調に進展している。

今後の研究の推進方策

平成31年は、本研究の最終年度にあたり、研究計画と推進方策は下記の通りである。
商業劇団が目立って豊かになったのが、エリザベス時代の1590 年代後半以降である。シェイクスピアが座付き作者であった劇団は、17世紀初頭に株主組織を作り、屋外劇場グローブ座に加えて、室内劇場ブラックフライアーズ座を所有した。屋外劇場より入場料の高い室内劇場は、富裕層の観客を集め、劇団の収益は増加した。このことは、劇中劇を含み衣装・舞台効果に金をかけた劇上演を可能にした。また一座は、ジェイムズ朝初期に国王劇団となり、宮廷との関わりを深めていき、王室上演時の演出・衣装を民間劇場でも利用できる範囲で取り入れた。市井の劇場でも、マスク場面や劇中劇を組み込んだ劇が上演され、特別な舞台衣装も用意されるようになった。
劇団の富裕化は、上演劇の自由度が増すことにもつながった。ロンドン経済の好況、成り上がり貴族の出現、ファッション熱などの時代の趨勢が商業劇場の芝居に反映されたが、同時に、貴族階級の腐敗を主題とした芝居もスチュアート朝演劇の特徴となった。これは、劇団のパトロン依存からの脱却を示すものともいえる。このような劇は市井の富裕層、知識層に、現実の王侯貴族への批判を呼び起こし、清教徒革命への気運に寄与するものともなった。平成31年は、これらの内容について論文発表を行う計画である。
本研究がテーマとするルネサンス演劇舞台衣装について、今日まで残る現物は皆無だが、ロンドンのヴィクトリア・アルバート博物館、フランス・リヨンの染織美術館には16世紀から17世紀の織物が多く所蔵されている。これらの調査を行い、宮廷マスク衣装や装飾品、これらが取り入れられたと考えられる商業劇場の舞台衣装について、視覚化復元を進める。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じた理由:購入を予定していた学術図書の刊行が遅れたため、購入できなかったこと、また、台湾での国際学会出張費に関して、航空券・ホテルの早期予約・購入を行ったため、見込みより低額に抑えられたことによる。
使用計画:平成31年には上記の図書が刊行される予定で、その購入費に充てる。また今年度は、ロンドンのヴィクトリア・アルバート博物館、フランス・リヨンの染織美術館で16世紀から17世紀の織物調査を行う計画であり、その海外旅費に充てる。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2018 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Enter a City Gallant―Clowns in the Jacobean Theater2018

    • 著者名/発表者名
      Yuko Kobayashi
    • 雑誌名

      Journal of Literature and Art Studies

      巻: Vol.8, No.6 ページ: -

    • DOI

      10.17265/2159-5836/2018.06.006

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Foreigners, Witches, and Masking Characters on the Early Modern English Stage2018

    • 著者名/発表者名
      Yuko Kobayashi
    • 雑誌名

      Proceedings of the 28th International Costume Congress

      巻: - ページ: 45

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Foreigners, Witches, and Masking Characters in the Early Modern English Stage2018

    • 著者名/発表者名
      Yuko Kobayashi
    • 学会等名
      The 28th International Costume Congress
    • 国際学会
  • [備考] RIDAI(東京理科大学研究者情報データベース)

    • URL

      https://ridai.admin.tus.ac.jp

URL: 

公開日: 2019-12-27  

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