本研究は、スチュアート朝の王室饗宴と、これに関与し、王室メンバーのお抱えとなった劇団が民間劇場でどのような劇をどのような衣装・演出で演じていたのか、その実態を明らかにすることを目指している。 本研究がテーマとするルネサンス演劇舞台衣装について、今日に残る現物は皆無だが、ロンドンのヴィクトリア・アルバート博物館、フランス・リヨンの染織美術館には16世紀から17世紀の織物が多く所蔵されている。本年度は、これらの調査を行い、宮廷マスク衣装や装飾品、これらが取り入れられたと考えられる商業劇場の舞台衣装について、視覚化復元の研究を進めた。 この調査と研究を基に、死者や妖精、女神など異界の登場人物が舞台でどのように造型されていたか、戯曲本文、劇場関係史料、宮廷マスクデザイン画に拠って検証し、論文発表を行った。シェイクスピアが座付き作者であった劇団は、屋外劇場グローブ座に加えて、室内劇場ブラックフライアーズ座を所有した。屋外劇場より入場料の高い室内劇場は、富裕層の観客を集め、劇団の収益は増加した。これによって劇団では、衣装・舞台効果に金をかけた劇中劇を含む作品の上演が可能になった。また一座は、ジェイムズ朝には国王劇団となって宮廷との関わりを深めていき、王室マスクで演じたほか、宮廷公演の回数も増加した。劇団は宮廷公演・マスクの演出や衣装を民間劇場でも利用できるようになり、市井の劇場でも、マスク場面や劇中劇を組み込んだ劇が上演され、特別な舞台衣装も用意されるようになった。本年度の論文発表では、上記のことを明らかにした。
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