研究課題/領域番号 |
16K02470
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研究機関 | 名古屋外国語大学 |
研究代表者 |
高田 康成 名古屋外国語大学, 現代国際学部, 教授 (10116056)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | typology / 巡礼 / 贖罪 / 救済 / 永劫回帰 / 祝祭 / 時間 / 歴史 |
研究実績の概要 |
"Henry IV Parts 1 & 2" を中心にして、(a)「超越・絶対性」と (b)「自然・本性」概念につながる表象(象徴、心象、ナラティヴ、パッターン)とその変奏の分析を行った。 (a)については、ヘンリー四世とその息子ハルとの関連で、伝統的深層の聖書的のレベル(typology)において、(i) 贖罪としてのエルサレム巡礼のテーマと (ii) それに関連した救済の比喩としての「放蕩息子」のテーマが潜在する。(b)については、フォルスタッフとの関連で、異教的な豊饒神話のレベルにおいて、(i) 倫理的時間制の消滅という「永劫回帰」的テーマと(ii) 社会的秩序の転覆という「祝祭」のテーマが下敷きとなっている。(a)と(b)は、演劇的ジャンルのうえでは、前者は西欧中世的な意味における「喜劇」(ダンテの『新曲』la Divina Commedia参照)と、古典(異教)的な意味における「喜劇」の混成として捉えることができ、ともに一緒の「救済・回復」という意味では一つに重なる。"Henry IV Parts 1 & 2"の斬新なところは、このように二つの異なる「救済」の伝統、すなわち「時間を通した救済」と「時間を超えた永劫回帰的な主催」を一緒くたにして、しかも双方ともに不完全であることを示すことにより、まさに「歴史」と呼ばれる近代的な次元・空間を描出したところにある。 この「歴史」次元・空間は、永遠と現在を統合する中世的な「フィグーラ」(figura)が解体したのちの時代にあって、新たな模索の末に生み出されたものであり、その次第は、西洋文学における「現実描写」の変遷を詳論したアウエルバッハの『ミメーシス』において、"Henry IV Parts 1 & 2"が、近代初期の代表として選ばれていることからも伺われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際学会での発表は公務と重なったため見送らざるをえなかったが、研究自体はほぼ予定通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の英国歴史劇分析で得られた成果に基づき、ローマ劇へと対象を広げて「歴史」の構成についてさらに検討し、最終的に「悲劇」の分析へと向かう。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注した書物が年度内納品に至らなかったため。
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