研究課題/領域番号 |
16K02474
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
松岡 信哉 龍谷大学, 文学部, 准教授 (50351333)
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研究分担者 |
湊 圭史 同志社女子大学, 表象文化学部, その他 (10598527)
清水 万由子 龍谷大学, 政策学部, 准教授 (60558154)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 環太平洋的想像力 / natureculture |
研究実績の概要 |
平成28年度は、共同研究体制を敷く3名の研究者を中心に、本事業テーマに関心を持つ研究者の参加も得ながら二回の研究会を実施し、本事業の基本構想の確認と、それぞれの役割分担の明確化を行った。 研究代表者松岡は本事業の中心テーマとなる「環太平洋的想像力」、naturecultureについて文献調査を行いデータをまとめ、さらに関連する研究会や学会に出席して知見を深めた。これらの知見は夏と春に実施した科研事業研究会合にて共有し、共同研究の基礎とすることができた。松岡個人が遂行する個別の研究テーマとしては当初計画通り、アメリカ文学史においてキャノンに位置付けられている作家のネイティブアメリカン表象を分析することで、環太平洋的想像力とアメリカ作家たちとの関係性を明らかにする端緒とした。具体的には、6月にミシシッピ大学で開かれたフォークナーにおけるネイティブアメリカンの問題を取り扱ったカンファレンスに参加してこの問題に関する理解を深めたのち、10月にミズーリ州で開かれたヘミングウェイとフォークナーカンファレンスで、両作家のネイティブアメリカン表象の比較研究についての発表を実施した。 共同研究者湊は分担して進める研究のモチーフを捕鯨と定め、アメリカ、オセアニア、日本の捕鯨文学のリサーチを進めた。湊は、無尽蔵の資源と見なされていた鯨が、持続可能性に顧慮しつつ活用されねばならない有限の資源へと変化していった経緯の中に、人間と自然の関係性の変化を見て取るアプローチを試みている。諸地域の文学表象の分析により、今後この基本的な見取り図の具体的検証に移ってゆく。共同研究者清水は環境科学の研究者として公害被害地域における共同性回復の問題を研究している。この問題は本事業がその立場に依拠するエコクリティシズムと密接に関わる環境正義の概念を用いて考察でき、このことから研究会合で清水は情報提供を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4年間の研究計画に基づき、初年度は研究代表者松岡が本事業の核となる幾つかの基本概念についてレヴューを行い、研究分担者との間で知見を共有することができた。またこれは当初計画においては必ずしも必須とはしていなかったが、環太平洋的想像力についてより広範なアプローチで考察するため、環太平洋地域を取り扱う作家を研究する研究者たちとの研究ネットワークを拡張しようとした。このことは本事業にとって有益な効果をもたらすこと必至である。 湊は本事業の基本構想を踏まえた上で、環太平洋の捕鯨文学を扱う研究のアウトラインをすでに策定しており、平成29年度の海外調査計画、および研究成果の発表(口頭)準備を着実に進めている。海外共同研究者リーガーは、ancestryのモチーフから環太平洋的想像力、natureculture概念に迫る研究を構想中であり、取り扱う日本の作家についてリサーチを進めているところである。共同研究者清水は熊本県水俣地域などにおける、公害被害地域における共同体の再構築の問題を考察するために、環境正義の観点を導入することを提起している。本事業において環境正義は重要な概念となるため、松岡や湊は清水の助力を得ながら、今後の研究の方向性に深く関わる本概念について知見を深めているところである。 以上のように、本事業の基軸となる幾つかの概念について共通の認識を得るとともに、それら概念に基づいて今後の個別研究の方向性を定めるとともに、各研究者は研究の公表に向けて発表応募や出張計画を策定・進捗させている。また本事業の核となる、共同研究体制の確立とその外延的ネットワークの拡張に関しても、当初予定以上の進捗を見ている。これらから、本事業は概ね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に2回開催した研究会合を定例化し、研究計画に沿って各会合ごとに本事業参加研究者が遂行すべき課題を明確化し、着実に遂行してゆく。また先にも触れた通り、平成28年度の第2回春期会合では、本事業のキーコンセプトの一つ、環太平洋的想像力のテーマに関わって、アラスカ地域を描いたアメリカ文学を研究する研究者、またハワイの日系アメリカ人文学の研究者の参加も得て、本事業のテーマについての理解を深めるため研究者ネットワークを拡大する努力をしている。今後もこのような方向で事業を進捗させてゆきたいと考えている。 また海外共同研究者であるクリストファー・リーガー氏とも研究代表者松岡が対面もしくはメールで協議を重ねており、当初予定より1年遅れとはなるが、平成30年度6月の日本招聘に向けて準備を重ねている。リーガー氏と研究代表者松岡は研究交流を深めており、平成29年度4月後半から5月にかけて松岡はリーガー氏が所長を務めるフォークナー研究所に資料調査に赴き、所蔵のブロツキーコレクションを調べることになっている。フォークナーの自伝等の原資料をも有する同センターの調査により、本事業に役立つ成果が得られることが期待できる。その際には平成30年度におけるリーガー氏の来日時における、日本での共同研究の実施細目についても打ち合わせを実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者清水は平成28年度は公害経験地域における現状調査や文献調査等を行ったが、公害資料館ネットワークの事業および科研費助成事業(課題番号26870718)で旅費、謝金、物品費等の経費を支払うことができたため、本助成金の使用を必要としない場合が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は公害経験地域における現状調査と文献調査に加えて、学会や研究会での中間的な成果発表を行い、旅費や謝金の支出を進める。
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