2018年度は本研究の最終年度に当たり、これまで調べることができていなかった書物や資料を調べるためにオックスフォード大学付属図書館(ボドリアン図書館)に出張を行った。Sensation novelsを中心に研究を行ったが、Mary Elizabeth BraddonのLady Audley’s Secret (1862)はまさに「火をつける女性」を扱った小説であり研究対象としては適切なものであった。大衆小説として人心をかき立てることで販売数を伸ばすという意図により選ばれた題材ではあるのだが、「火をつける」という転覆的な行為は同時に既存の権威や秩序に対する女性の抵抗をも激烈な形で表現していることが判明した。また本研究の中核である作品であるCharlotte Bronteのマニュスクリプトを本図書館で調べることができ、著者の意図を推察する貴重な発見を行うことができた。 なお、関連する書物であるMargaret AtwoodのThe Handmaid's Taleの研究を行い、女性の基本的人権が侵される状況に関しても考察を行った。「火をつける」ことは男性中心主義・家父長制度がいまだに打開されていない現代にも有効な既存価値の破壊を典型的に表現する象徴であったが、本作では女性及び生殖の未来の危機について論文を執筆し、そのディストピア的世界観から何が読み取られるかについて研究を行った。本論文では併せて田中兆子が執筆した『徴産制』の分析も行った。その結果については論文を執筆し、本年度内に出版に至った。
|