本研究は、20世紀前半(特に1920年代~1930年代)におけるアメリカのプロレタリア文学を階級的視点だけではなく、ジェンダーや人種・民族という視点で考察することを目的としている。アメリカのプロレタリア文学は、Michael Gold の主張に見られるように、そもそも労働者階級出身の作家による労働者の生活を描くことを目的にしていたため、文学研究においても階級をフレーム・ワークにして論じられてきた。しかしながら、最近の研究では、単に階級や資本主義といった視点からではなく、プロレタリア文学における性や人種の問題も注目されている。社会の底辺にいる貧困階級は、ユダヤ人や黒人をはじめ、人種的マイノリティーと重なるものであり、また、社会的に抑圧されてきた女性とも重なるからである。たとえば、Michael Gold の Jews without Moneyにおいては、主人公の階級意識の芽生えだけでなく、ユダヤ人の社会的・歴史的問題が描かれている。同時にまた、主人公の両親の生活の描写を通して、ユダヤ人家族のジェンダー・ロールについても知ることができる。 本研究では、以上のような観点から、女性のプロレタリア文学者である Agnes Smedley、ユダヤ人作家である Michael Gold、アイルランド出身のJack Conroyらに焦点を当てて、その文学的特性について調べた。 2019年度は、Agnes Smedleyを中心にして研究し、彼女の多難な人生を調べるとともに、代表作であるDaughter of Earthについて、階級、セクシュアリティ、ジェンダー・ロール、欲望といった観点から作品分析を試みた。 個々の作品は、一義的な解釈を拒む複雑な要素を持っている。作品自体の複雑さを考慮しつつ、プロレタリア文学の特性を一般化することが課題である。
|