研究課題/領域番号 |
16K02482
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
米山 正文 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (80323319)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 19世紀米国文学 / 海洋文学 / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
年度の前半は主に、19世紀前半の米国海洋文学に関する研究書、背景に関わる歴史書、そして海洋文学作品を収集した。9月~1月までは収集した文献の読解作業を進めた。主要な海洋文学については、1810年代~1820年代のものを中心にし、特に米国海洋文学の開祖となるジェイムズ・フェニモア・クーパーの「水先案内人」と「レッド・ロウバー」を読解した。1月に読了しノート取りを終えた。2月よりクーパーに関連する研究書や論文を読み進めている。 一方で2月に、読解した数々の歴史書や研究書等の内容を整理し、本年度の成果として発表する論文の構想に取り掛かかった。その結果、クーパーの「水先案内人」を主な対象とした論文を執筆することとした。3月より論文の執筆に取り組んでいる(5月に完成予定)。 これまでの研究で明らかになったことは以下の3点である。(1)1812年の英米戦争後、海洋ナショナリズムを反映した大衆小説が現れるが、従来の批評とは異なり、クーパーの小説はそれらと異なり、単純にナショナリズムを反映したものとはいえない。(2)近年はむしろ、クーパー小説におけるナショナリズムの破綻、あるいはエクストラナショナリズム(extranationalism)を主張する論考が支配的である。(3)こうした近年の論考はしかし、ナショナリズムやナショナル・アイデンティティの体現者と思われる登場人物の分析に終始している。そうではなく、本研究では、小説全体が(登場人物間の関係も含め)、どのような建国神話を作ろうとしているのか、どのようなナショナル・アイデンティティを構成しようとしているのかという観点でテクストを分析する必要がある。つまり「神話化」のテクストとして見た場合、クーパーの小説はある種のナショナリズムを提示していると解釈できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、歴史書や研究書、文学作品の読解に予想以上の時間がとられた。特にクーパーの数百ページの作品を読み、ノート取りをすることに膨大な時間を取られた。 また、研究分担者となっている他の科学研究費補助金事業(挑戦的萌芽研究)の研究を同時に進めているが、そちらにも予想以上に時間を取られた。必要とする資料がなかなか入手できず、全体的に作業が遅れた。 全体として、読解に予想以上の時間がとられるため、海外からの文献収集をとにかく早めに行うことが必要であることを痛感した。
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今後の研究の推進方策 |
多くの研究書を俯瞰した結果、1840年代以降になると、海洋文学が衰退過程に入ることが分かった。それゆえ、当初の計画を一部修正し、平成29年度は引き続き1820年代~1830年代の海洋文学を中心に研究を進めていく。具体的には、1840年代にダナの「平水夫としての2年間」の前までの、主にクーパーの作品を中心に分析を進める。ダナの海洋文学は1つの時代の終わりを告げるものであり、文学というよりジャーナリズムに近く、しかも国家内の社会・制度改革の具体的提言である。ダナ以前の海洋文学こそ、建国期の国家神話を探るに恰好の材料になると考えられる。 1820年代~1830年代の文学を、とりわけクーパーの最高傑作といわれる「レッド・ロウバー」を中心に研究し、平成30年度の1840年代~1860年代の文学(クーパー後期の作、ポーの中篇小説、メルヴィル「白鯨」の一部等)研究に繋げていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であったモバイルパソコンの購入を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の支給額から少し足してモバイルパソコンを購入するか、米国海洋文学関連の書籍購入に使用する予定である。
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