ジェイムズ・フェニモア・クーパーの海洋小説と建国神話との関係を考察した。昨年度まで初期作品を対象としており、遂行の遅れから、今年度は昨年度研究対象の予定であった「レッド・ロウバー」と、今年度対象であった「ウォーター・ウィッチ」の両作品を一度に同時に扱うことで、3年間の研究をまとめた。その成果は研究論文「植民地ナショナリズムの終焉--「レッド・ロウバー」から「ウォーター・ウィッチ」へ」(「宇都宮大学国際学部研究論集」第47号、2019年2月、pp.185-196.)として公表した。 当該年度での研究では、まず「レッド・ロウバー」に見られる建国期の革命ナショナリズムがどのように登場人物に具現化されているかを分析した。さらに、対立する英国がどのように描かれているか、植民地と英国との関係は登場人物の関係によってどう著されているか、小説のプロットや登場人物の性格の発展はどのようになっているかを詳細に分析した。次に、次作「ウォーター・ウィッチ」に焦点を当て、主に前作「レッド・ロウバー」との比較を、革命ナショナリズムの扱いという観点から詳細に行った。その結果、ある程度のナショナリズム熱は主人公の思想において共通しているが、主人公の人物造型や行動の展開、他の登場人物との関係、様々な人物・舞台設定、さらに小説のプロットにおいて、顕著な相違点を明らかにした。こうした相違点は、「レッド・ロウバー」から「ウォーター・ウィッチ」へ移行した際に、クーパーの建国神話形成志向がかなり減退し解体したことを示していると論じた。 そして、昨年度までの研究と合わせ、米国初期海洋小説からクーパーの中期海洋文学までで、独立革命、英米戦争後のナショナリズムが衰退していったこと、逆に国際的な舞台を志向するコスモポリタニズムが生じていったことを明らかにした。
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