研究実績の概要 |
本研究の目的は、米国現代前衛舞台芸術における身体・越境・テクノロジー、文化政策、芸術/教育制度の諸問題について、対象を人形・仮面等の「演じるオブジェ」(John Bell, 2006)、すなわち広義の人形劇に特化し、合衆国に独自に展開した前衛舞台芸術形式および実践活動として、その美学的・政治的戦略、ジャンルの成立史と制度化に至る過程を検証し、包括的な考察を行うことで、前衛舞台芸術および現代アメリカ演劇史に出現したひとつのサブジャンルとして再定位を試み、今世紀の展開を標榜するための新たな学術的指標を提示することにある。 もとは人形劇台本として制作されたアルフレッド・ジャリによる『ユビュ王』(1888)以降ギニョル(仏)やパンチとジュディ(英)等大衆演芸、ロシアの人形劇をバレーに作品化した『ペトルーシュカ』(1911)等隣接ジャンルを巻き込む形でモダニズム前衛演劇へと展開した。米国においては、1960年代以降の前衛演劇人が欧州の前衛演劇理論に加え、ジョン・ケイジが紹介したアルトーの「残酷演劇」理論やブレヒトを参照項に新たな表現形式を模索し、広義の人形劇は舞台上の俳優の身体やセノグラフィー、上演空間の実験に恰好の媒体となる。身体は常に考察と実験の対象となり、今世紀以降は暴力表象の実験対象としても、人形はしばしば切断された身体の代理表象として焦点化される。 一方米国の人形劇関連の団体および人形劇制作・人形師養成の制度面についても基礎調査を行った。UNIMA米国支部・Center for Puppetry Arts、Puppeteers of America、Jim Henson Foundation、University of Connecticut等、申請研究期間内に実際に訪問調査を行う計画であったが、新型コロナ禍の影響により、訪問調査は断念し、オンラインで各団体の活動を調査した。
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