研究課題/領域番号 |
16K02484
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
井川 ちとせ 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20401672)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 英文学 / 読書会 / ミドルブラウ / 解釈共同体 / 共感 |
研究実績の概要 |
一般読者にとっての読むことの意味を実証的に研究する目的で、5月、8月、3月に渡英し、読書会の参与観察(7件)および個人への聞き取り調査(37名)を実施したほか、リヴァプールを拠点とする慈善団体を訪ね、学習部局副部局長と、団体のプログラムの成果の評価を担っている大学教授にインタビューをおこなった。後日、この団体が開いている読書会の観察もおこなった。大学の市民講座を見学し、参加者のなかからインタビュー協力者を募るなど、平成30年度に継続する調査の足がかりを得た。また、平成28年度より引き続き、一般読者向け書評誌やラジオ番組の分析をおこなった。 ゲスト講師としてお招きいただいた7月の日本ロレンス協会シンポジウム(「情動、共感、D. H. Lawrenceとその周辺」)においては、「文学的経験と『多元的呑気主義』」と題し発表をおこなった。『古典アメリカ文学研究』で用いられた造語 “pollyanalytics”(「多元的呑気主義」は岩崎宗治氏の名訳)に着想を得て、多元主義的社会における他者どうしの共生の可能性を探った。ロレンス作品のなかでは、おもに前掲書と『無意識の幻想』を参照しながら、過去およそ20年間の批評の情動的転回と言える動きを紹介しつつ、本研究課題のフィールドワークで得た考察を踏まえ、文学作品が共感にもとづく相互理解を育むことを自明視する近年の潮流を批判的に検討し、いわば「共感という素養ある読者」を想定したアプローチを唯一特権化する危険を指摘した。 3月に刊行された論集『英国ミドルブラウ文化研究の挑戦』(中央大学人文学研究所編)では、共著者のうち5名とともに編集作業を担い、序文(共著)と「『ミドルブラウ』ではなく『リアル』ー現代英国における文学生産と受容に関する一考察ー」(単著)を寄稿した。拙論は、書評誌の分析と読書会の参与観察の分析に基づくものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
教育活動および学務との兼ね合いで、現地調査をおこなう時期や期間が限られ、聞き取りなどのスケジュール調整は容易でなかったものの、先方のご理解とご厚意により、おおむね順調に調査を進めることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き参与観察および聞き取り調査、書評誌とラジオ番組の分析をおこないながら、平成30年7月9日から13日にかけてウェスタン・シドニー大学で開催されるSHARP(The Society for History of Authorship, Reading and Publishing)年次大会において、研究発表をおこなう。平成30年度の研究成果を論考にまとめ、『一橋ジャーナル』に投稿する。
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