この研究は、現代社会における宗教と児童文学の関係を、作品と読者に焦点を当てて考察する。主要対象作品は、北米のアーミッシュ・コミュニティーを題材とした児童文学である。アーミッシュの子供たちが主人公の物語のうち、アーミッシュ・コミュニティー内で読まれている作品と、非アーミッシュ児童に広く読まれている作品を比較・分析する。また、異なる読者を対象とした作品とそれぞれの受容を比べる。これらの研究により、過去20年間に北米で出版数が飛躍的に伸びている一般児童向けアーミッシュ題材児童文学の実態を明らかにし、21世紀の児童文学において、宗教コミュニティーの登場人物が世俗的な児童文学マーケットに浸透している理由を探る。 2019年度は、アーミッシュ社会の宗教性について、心を整える活動としての家事労働の描き方に焦点をおいて、アーミッシュの読者に読まれている家庭雑誌の子供用物語と、非アーミッシュの作中に描かれる家事労働の描写に注目して比較研究し、日本の禅の「作務」の考え方との比較も行って、アーミッシュ学会で成果発表した。また、まわりと違う文化を持つ登場人物が次第に言葉を介して生きづらさやわだかまりと向き合っていく姿について、国際児童文学学会世界大会で発表した。 研究最終年を迎えて、家事労働のとらえ方からみた宗教的題材を持つ児童文学について、アーミッシュ題材の文学だけではなく、世界的な広がりのあるテーマとして研究を続ける方向が見えてきたことは、大きな成果であると言える。
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