研究課題/領域番号 |
16K02494
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
永尾 悟 熊本大学, 文学部, 准教授 (80389519)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アメリカ南部 / 白人性(ホワイトネス) / ウィリアム・フォークナー / ジェイムズ・ボールドウィン / リチャード・ライト |
研究実績の概要 |
本研究の全体像として、地理的・思想的領域としてのアメリカ南部をめぐり、この地域的独自性と表裏一体とされた白人性の概念から、William Faulkner、Richard Wright、James Baldwinの文学を考察する。公民権法制定や冷戦構造によって南部の位置付けが変化した第二次大戦後において、これらの作家たちが、地域内の人種的相互作用を越えて構築される南部白人性を表象しようとした文学的想像力を捉えることを目指す。そのために、カラーラインと地理的境界線の相関性を再考する南部研究の新たな流れを踏まえ、白人性研究の理論的枠組みを援用しながら南部のローカリズムとグローバリズムの接点を人種という観点から探っていく。 上記の全体像を踏まえ、29年度はJames BaldwinのAnother Country (1962)におけるアメリカ南部と白人性表象についての考察を行なった。1948年にアメリカを離れたBaldwinが、主にフランスで執筆したこの作品において、ニューヨークとパリで生きる南部白人の異性愛者と同性愛者を描いた意義を考察した。「大西洋間の通勤者(transatlantic commuter)」と自称するBaldwinが、南部をアメリカ国内外に「転地(relocate)」しつつ南部白人のセクシュアリティを表象した点が、犠牲者/反抗者としての黒人男性を語る従来的な物語からの脱却であることを明らかにした。 この研究の成果は、29年度5月に開催された国際James Baldwin学会で発表し、Georgetown大学のAngelyn Mitchell氏をはじめとする3名のパネリストとのオープン・ディスカッションを行なった。この発表内容を異なるアプローチから日本語でまとめた論文を共著『ホワイトネスとアメリカ文学』発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ボールドウィンに関する日本語論文は共著の中で発表できたが、国際学会での原稿を英語論文として完成できていないので、29年度内に完成させたい。
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今後の研究の推進方策 |
Richard Wrightが1945年に発表したBlack Boyについて、Wright自身の経験を綴ったこの小説が、黒人作家が人種的真正性を語る「自伝」という定式を書き換えた点、そして、この書き換えが思想的空間としての南部をめぐるWrightの独創性を表す点を明らかにする。この2点を明らかにするために、Wrightがこの作品を着想するまでの経緯、および、出版に至るまでに行われた複雑な改稿過程に着目しながら、自己表象と人種表象の境界線の揺らぎが作品中の南部世界の中でどのように映し出されているのかを考察する。さらに、Black Boy出版からしばらくしてアメリカを離れたWrightが、フランスで汎アフリカ主義の知識人と関わりながらも南部黒人としての強い自意識を持ち続けたことにも言及したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたいくつかの図書が入手困難であったり、年度内の納品に間に合わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度中に納品できなかった図書を29年度中に入手する予定である。そのうち年代の古い貴重図書は、国内での入手が困難なため、海外からの取り寄せを検討している。
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