本研究課題の最終年度として、2018年度に行ったFrank Yerbyの作品における南部白人性表象に関する学会発表の内容をふまえて英語論文を執筆し、2019年度末に発行された学会誌で発表した。本論文では、作品の舞台となるニューオーリンズのクレオール文化の多人種・多民族性が、アメリカ南部における白人性構築に強く作用し、大農園制度における白人農園主と黒人との関係をより複雑にしていることをYerbyの歴史ロマンスが暴き出した点について考察したものである。この論考をきっかけとして、アメリカ南部の文化的多様性を前提とした白人性表象を他の文学作品からも読み取れる可能性が明らかになった。 また、本年度はJames Baldwin文学におけるアメリカ南部と白人性に関する資料収集と研究ノートの作成を行った。Baldwinが1940年代後半にヨーロッパに移住して以降、大西洋の対岸からアメリカの人種関係を見つめ直し、そのルーツをアメリカ南部の白人と黒人の人種混交の歴史の中に見出そうとした点を、小説のみならずエッセイや書簡、さらには未発表のメモなどを手がかりに考察した。特にいくつかの短編・長編小説の構想段階で、Baldwinがアメリカの人種問題を南部の地域性と白人性の交差性から捉えようとした点が見られた。これについては関連資料が予想以上に多く、本年度は論文執筆までには至らなかったため、2020年度中に英語論文を執筆する予定である。
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