研究課題/領域番号 |
16K02496
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
小林 正臣 琉球大学, 教育学部, 准教授 (30404552)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | チャールズ・ブコウスキー / ポスト・オフィス / 仕事 / 郵便 |
研究実績の概要 |
本年度は、当初の計画どおりに、前年度の調査に基づく研究を行えた。具体的には、審査論文を作成し、所属学会の会誌に掲載された。以下は、その概要である。 本稿は、チャールズ・ブコウスキーのデビュー作『ポスト・オフィス』を仕事小説として読み直すことで、作者の私生活の投影として読まれることが圧倒的に多い本作へ新たなアプローチを試みる。本作が出版された1971年、郵政省から郵便事業が移管されて郵政公社が発足し、待遇や労働環境の改善などが行われたが、すでに前年に退職していた作者は、過酷な郵便業務について直截的に描く。入局するまでは職を転々とした作者が、そのような業務を10年以上も行えたのは何故か。それが本稿の核心となる問いである。 その一つの答えが、作者にとって郵便業務は創作行為に通じていたということである。例えば、迅速に配達するという彼の姿勢は、簡潔に伝達するという彼の詩作に通じる。そして配達員(外勤)から事務員(内勤)へと変わったときも、郵便と創作は通底していた。彼に求められたのは、多くの郵便物を一度の仕分けで行うということである。個々を早く届けるという業務から一回で多く分けるという業務への転換は、詩人から小説家への転身と重なる。当時の作者は、個々の読者に向けて詩作を行うことから、一般の読者に向けて小説を書くことへと関心が移っていた。その関心は、仕事を外勤と内勤という両面から捉え、可能な限り一般の仕事として提示し、広範な読者層を想定していたことに表れている。 このように郵便業務は創作行為と深い関係があるが、郵便それ自体がアメリカ文学で重視されることは殆どなかった。しかし、「バートルビー」を含めて少数ながら郵便をめぐる小説は存在する。本稿の結論では、それら作品の再評価を行いながら『ポスト・オフィス』との文脈化を図ることで、仕事小説かつ郵便小説としての本作の重要性を説く。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたとおり、前年度の調査に基づき、研究論文を作成し、掲載するに至った。この成果に基づき、更にポストオフィスをめぐる作品群および先行研究を調査・収集している。絶版などにより入手が困難な文献や資料は、インターライブラリー・ローンなどを活用して対応している。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で得た知見に基づき、今後は更なる資料収集を行いながら「郵便小説」を探究していく。更には審査付きの論文として学会に投稿し、研究の具体的成果を適宜示していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初に計画していた「オフィス・フィクション」研究を、当該年度においてはポスト・オフィスをめぐる「オフィス・フィクション」研究へと特化したことから、計画していた図書や物品の購入数が減じた為。
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