本年度は最終年度ということもあり、プロジェクトの総括および今後のプロジェクトへの発展を図った。
前年度までは〈バートルビーたち〉としてアメリカ文学作品の中から選んで文脈化しながら論じてきたが、選ばれたのは主として男性作家による作品であり、主人公も男性が中心であった。しかし現実においてはオフィスにおける仕事は女性が中心であるこが少なくない。したがって、フェミニズムが台頭し浸透しつつあった1970年代に"What If Bartleby Were a Woman"?というエッセイが女性によって書かれたことは、注目に値する。このエッセイにおいて著者Patricia Barberは、バートルビーが極めて中性的であり、したがって男性的だけでなく女性的でもあることを提示した。この視角を応用して、本研究は"What If Bartlebys Were Women?"という問いを立て、それに基づいて女性の〈バートルビーたち〉を発見または再発見することで、さらなる視野の拡大を目指した。その結果、アメリカ文学におけるキャノンの範疇に入らない作品を取り込むことができ、オフィス・フィクションの多様化が行えた。最終的には、論考として学会誌等に投稿することでその客観性を図る準備を行った。
今後は、〈バートルビーたち〉で得た視点と課題を参考にして、さらにポスト・メルヴィル研究を行っていく。具体的には、『白鯨』におけるエイハブ船長が体現する様々な曖昧さに着目して、この人物の末裔〈エイハブたち〉をめぐるアメリカ文学作品の再発見とおよびそれに基づく新たなる文脈化を行う予定である。
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