本研究の目的は、2015年度までの科研費研究で明らかになった成果を基礎とし、ハーレム・ルネサンスと呼ばれる1920-30年代のアフリカ系アメリカ人による文化運動において産出された文学テクストと、現代アフリカ系アメリカ文学テクストとの類似性と影響関係について分析することである。とりわけ、ネラ・ラーセンらによる当時の文学的実践がいかに今日のアフリカ系アメリカ文学において変奏されつつ継承されているかを検証することに努めた。4年間の研究期間を通じて文献資料の読込みを行い、著書、論文、講演、研究発表等の形で実績を積み上げた。2019年4月、日本アメリカ文学会中部支部大会において「ハーレム・ルネサンスとは何か」と題するシンポジウムを企画し、司会・講師を担当した。10月には、日本英文学会中国四国支部大会において「ハーレム・ルネサンスとネラ・ラーセン」と題する講演を行った。12月には、日本アメリカ文学会北海道支部大会において「ハーレム・ルネサンスの徴の下に」と題する講演を行うと同時に、シンポジウム「他者と/を生きる」のコメンテイターを務めた。2019年度中に出版した論文としては、「『私は黒人ではない』ー『あの夕陽』における子殺し」(『フォークナー』21号)、「『スーラ』における暴力と同性愛」(『ユリイカ』51巻17号)、「ネラ・ラーセンの伝記」(『エスニシティと物語り』金星堂)がある。 本年3月にアメリカ合衆国ニューヨークにおいて文献収集とハーレム地区の実地調査を行う予定であったが、COVID-19の影響で実施することができず、2020年度からの研究「インターレイシャルな主体への偏見とその復権ーハーレム・ルネサンスとネラ・ラーセン」を遂行する工程表において多少の遅延が生じることとなった。しかし、本研究において、これまで不明であった多くの論点を明らかにすることができたことは大きな成果である。
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