研究課題/領域番号 |
16K02498
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
難波江 仁美 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (30244677)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘンリー・ジェイムズ / ラフカディオ・ハーン / 帝国主義 / 語り / 美術収集 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヘンリー・ジェイムズ(1843-1916)とラフカディオ・ハーン(1850-1904)における語りの特徴をアメリカ帝国主義という歴史的文脈において検証し、それを「海を渡る語り」として定義づけることである。生い立ちも作風も異なる作家ではあるが、彼らが共有する19世紀末の帝国主義的時代背景に注目する。初年度は、それぞれの作家の問題意識に注目し、社会における盲点をどのように暴いたかを検証した。当該年度も国際学会や研究会での意見交換を通して、帝国主義時代における彼らの問題意識、またそれがどのように創作につながったかについてさらに研究を進めることができた。 当該年度前半は、5月に第28回ALA(American Literature Association、於ボストン、米国)におけるジェイムズのパネル(“If I were to go to Japan”: Theory and Practice of Travel in Henry James and Beyond)、7月に第7回ヘンリー・ジェイムズ国際学会(於ソウル、韓国)で、基調シンポジウム)に招待発表、また日本からもシンポジウムを提案、他4名の女性研究者と発表を行い、欧米および日中韓の研究者たちとのたいへん有意義な意見交換の場となった。9月には第24回AISNA(イタリアアメリカ学会、於ミラノ、伊)でのフォーラム(Black Mountain College: Removing Barriers, Exo/Echoing the World)に招待発表。20世紀中葉の芸術運動についてのシンポジウムではあったが、19世紀末と同様に不穏な時代における芸術や創作の意味を考える上で示唆的な学会となった。 ボストン、ソウルでの発表内容は、それぞれ論文集に掲載予定である。ハーンにおける帝国主義時代の語り(「父の言葉」)は現在審査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「海をわたる語り」を米国帝国主義時代を背景に詳述することが目的である。そのために(1)ヘンリー・ジェイムズとラフカディオ・ハーン両作家の語りの特徴について検証し、(2)新聞等における歴史的政治的言説と比較検討、(3)他作家知識人による語りとの比較検討を行う。初年度は(1)を目的として、二人の作家それぞれについてテキスト分析を行った。当該年度は(2)を目的としていたが、(1)の延長上でそれぞれの作品についての検証の延長線上で研究を続け、19世紀末メディア言説の検討についてはインターネット等での公開文献、およびボストンでの国際学会の合間でのホートン図書館での資料収集に限られてはいたが、おおむね研究の目的は達成されたと考える。 10月の日本アメリカ文学会において2017年のジェイムズ学会で面識をえたJane Thrailkill教授(ノース・カロライナ大学)を招聘することができ、日本の研究者との交流および神戸市外国語大学(本務校)での講演会、学生との交流会を持つことが叶った。研究者や学生に留まらず一般の方々へのフィードバックに貢献することができたのは意義深い。またソウルでの国際学会では、日本人女性によるパネルを実現させ、有意義な意見交換の場を提供することができ、内容も充実して好評であった。また同学会における中国、韓国の研究者とのコラボである基調シンポジウムは、画期的であった。 残念な点は、海外アーカイヴでの資料収集に十分時間をとることができなかったことである。「海をわたる語り」の言説定義にむけて最終年度には文献研究をさらに充実させたい。
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今後の研究の推進方策 |
「海をわたる語り」を米国帝国主義時代を背景に詳述することが本研究の目的である。そのために(1)ヘンリー・ジェイムズとラフカディオ・ハーン両作家の語りの特徴について検証し、(2)新聞等における歴史的政治的言説と比較検討、(3)他作家知識人による語りとの比較検討を行う。これまでの二年間で、(1)(2)を目的として、二人の作家それぞれについてテキスト分析を行い、おおむね予定した調査、研究、発表を達成することができた。二人を結ぶ「海をわたる語り」理論の形成に向けてさらに研究に拍車をかけなければならない。 第2年次には、学会の成果もあり論文執筆をおこなったが、当該作家二人を包括する論考までは発展させることができていなかった。最終年度はそれらを一つにまとめて二人の語りをつなぐ理論作りを完成させたい。そのためには、19世紀末のアメリカの帝国主義について作家だけでなく他の知識人の言説を調査する必要がある。 論考は英文で最終的にはまとめ、出版をめざす。そのために19世紀末帝国主義時代の時代、文化背景の枠にとどまらず、そこからどのような語りが生まれ、またそれがどのようにそれ以後の言説に影響していったのかについて検証する。夏期には第二年度に叶わなかった米国での資料収集を実現し、年度後半には研究成果をまとめたい。
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