研究課題/領域番号 |
16K02499
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
松永 京子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (50612529)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 核・原爆表象 / 先住民文学 / アフリカ系アメリカ文学 / 日系アメリカ文学 / 日系カナダ文学 |
研究実績の概要 |
平成28年度は以下の3点を実施した。 (1)アフリカ系アメリカ作家による50、60年代の核・原爆表象を社会運動との関係から検証するため、ラングストン・ヒューズが50、60年代に発表した作品に関する文献・資料や、公民権運動と反核運動の関連が示された文献・資料を収集・調査した。特に、1945年から1960年代にかけて『シカゴ・ディフェンダー』誌に掲載されたヒューズのコラム「シンプルの物語」に注目し、ヒューズの反核思想が冷戦時代のマッカーシズムによってどのような影響を受けてきたのかを明らかにした。 (2)アメリカ南西部と北西部の二つの地域を中心に、北米先住民と核の表象に関する文献・資料を収集・調査した。具体的には、デボラ・グレガーやテリ・ハインといったハンフォードの核汚染を描いたアメリカ北西部出身の作家らが、ハンフォードの影響を受けた先住民の「声」をどのように反映しているのかを考察し、レスリー・マーモン・シルコーの『死者の暦』に描かれるアメリカ先住民のアクティヴィズムとアフリカの先住民による反核運動との関連を検証した。 (3)原爆・核に言及した日系アメリカ文学や日系カナダ文学をトランスパシフィックな環境的視座から検証するため、日系被爆者に関する文献・資料を収集・調査した。本年度は主に、日系カナダ人作家ジョイ・コガワの『オバサン』に描かれる日系被爆者の不在に着眼し、1970年代の日系被爆者運動との関連から読み解いた。 上記の研究成果は、エコクリティシズム研究学会やASLE-J学会等で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、予定していたウィスコンシン大学図書館での調査を実施することができなかったため、ロレイン・ハンズベリー、ゾラ・ニール・ハーストン、ジェームズ・ボールドウィンなど幅広いアフリカ系作家の反核思想に関連する具体的な文献や資料を入手することができなかった。だが、1945年から1960年代にかけて『シカゴ・ディフェンダー』誌に掲載されたラングストン・ヒューズのコラムは、ウェブ上で入手することが可能だったため、ヒューズの反核思想が冷戦時代のマッカーシズムによってどのような影響を受けてきたのかを調査・分析し、明らかにすることができた。 平成29年度以降に行う予定の核・原爆に言及した日系作家に関する研究については、日系カナダ人作家ジョイ・コガワの『オバサン』研究を中心に大きな進展があった。また、平成28年度は北米先住民に影響を与えてきたウラン鉱山を描いたアメリカ作家の作品にも着手することができた。そういった意味においても、本研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度はラングストン・ヒューズの作品を中心にアフリカ系アメリカ人作家による50、60年代の核・原爆表象を冷戦との関係から明らかにしたが、ゾラ・ニール・ハーストン、ジェームズ・ボールドウィンなどの作家については十分に検証することができなかった。そのため、これらの作家に関する文献や公民権運動・反核運動に関連する文献・資料をウィスコンシン大学図書館で調査・収集し、分析する予定である。 また、平成29年5月から3月まで在外研究で滞在するブリティッシュ・コロンビア大学では、次の3点を実施する予定である。 (1)カナダ文学に描かれる先住民とウラン鉱山の関係を検証するため、図書館に所蔵されているカナダ先住民関連文献を調査。 (2)前年度に行ったジョイ・コガワ『オバサン』の原爆表象研究をもとに、日系カナダ人と原爆の関係を図書館で調査。特に、地元の新聞記事を中心にバンクーバーに居住する日系被爆者についての情報を収集。 (3)ルース・オゼキの小説『あるときの物語』に描かれる原発事故のトランスパシフィックな環境的社会的影響を考察するため、震災漂流物の環境的影響などに言及した地元の新聞記事を調査。 チカーノ作家の核言説についての分析は平成30年度に行う予定であるが、アメリカ南西部の核の歴史に関連する文献・資料は北米滞在中にできる限り収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたウィスコンシン大学図書館での調査を実施することができなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ウィスコンシン大学図書館での調査は平成29年度の夏に行う予定である。
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