最終年度である2019年度は以下の4点を実施した。 (1)多様な人種的・文化的背景をもつアメリカ作家による核と原爆の言説をアメリカ南西部の核開発の歴史との関係から検証するため、ニューメキシコ州のLos Alamos History Museum、Bradbury Science Museum、National Museum of Nuclear Science and History等で調査をおこない、ミュージアムにおける核・原爆表象、アメリカ南西部先住民作家やチカーノ作家による核をめぐるナラティヴを分析した。本研究成果の一部は、著書『北米先住民作家と〈核文学〉』で発表した。 (2)ミネソタ州のプレアリー・アイランド原発とプレアリー・アイランド・インディアン・コミュニティでの調査に基づき、オジブエ作家ジム・ノースロップの新聞コラムにおける反核ナラティヴを分析した。本研究結果の一部は、著書『北米先住民作家と〈核文学〉』で発表した。 (3)カナダ北西準州のウラン鉱山ポートラジウムが先住民サーツ・デネに与えた影響を調査し、ドキュメンタリー映画、グラフィック・ノヴェル、戯曲におけるトランスパシフィックな核のナラティヴの可能性と限界について考察した。本研究成果の一部は、2019年8月に開催されたエコクリティシズム研究学会のシンポジウム「カナダ文学と環境 土地と資源を巡って」で発表した。 (4)2018年にバンクーバー美術館で開催された二つの展示会(「タコが己の足を食う」展と「BOMBHEAD」展)における核表象を調査し、太平洋を巡るカナダのウランのナラティヴを文化的・歴史的視座から考察した。本研究成果は、学会誌『中・四国アメリカ研究』に掲載したのち、修正・加筆を施し、共編著『トランスパシフィック・エコクリティシズム 物語る海、響き合う言葉』の一部として発表した。
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