研究課題/領域番号 |
16K02507
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
野口 啓子 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (60180717)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | デイヴィッド・ウォーカー / 反奴隷制文学 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀中葉のアメリカン・ルネサンス期に次々と発表された奴隷制をめぐる言説を一つの文学ジャンルとして捉え、それらが「もう一つのアメリカン・ルネサンス」を形成したことを明らかにすることを目的としている。この目的を達成するために、反奴隷制文学の間テクスト性を視野に入れつつ、スレイブ・ナラティヴや小説、政治的プロテスト、演説等を包括的に取り上げ、その諸相と系譜を検証するものである。 上記の研究のために、初年度の平成28年は、ウォーカーやチャイルドなどのプロテスト文学からストーの『アンクル・トムの小屋』へいたる反奴隷制の言説の精査を中心に、『アンクル・トム』以前の反奴隷制文学に焦点を当て、それらに共通する「共和国の理念」とそこからの離反というナショナリズムの言説が、この時代の作品を特徴づけていることを明らかにしようとした。 共和国の理念については、ジェファソンの「独立宣言」や『ヴァージニア覚書』、合衆国憲法などを中心に、共通するアメリカ民主主義のビジョンを明らかにすることができた。それと同時に、そのような聖典の内部に含まれる人種差別的言説も抽出することができた。 上記の研究成果を元に、デイヴィット・ウォーカーの『訴え』を検証した。とりわけ、ウォーカーのジェファソンへの批判の拠り所を、当時の黒人が置かれた社会的状況に照らし合わせて明らかにすることができた。しかし、一方で、チャイルドの『訴え』の方は、時間的問題もあり、十分な考察ができなかった。これは今後の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、ジェファソンの民主主義のビジョンとその矛盾、それに対するウォーカーならびにチャイルドのプロテスト・文学の特徴を精査することを目指していたが、ウォーカーまでは終了できたが、チャイルドの方は未終了の形となった。その理由は、主として、平成28年度より大学の新たな重責を担うこととなり、本研究に十分な時間を注ぐことができなくなったことである。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に予定していたチャイルド研究は、本年度(29年度)の女性作家の反奴隷制文学と同時に進めることが可能であると考えている。本年度の、ストーの『アンクル・トムの小屋』の研究については、すでにかなりの研究を行っているので、遅れた分を取り返せるのではないかと思っている。反奴隷制文学について、時代考証を十分に行いながら、その諸相を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度より大学の新たな重責を担うことになり、予定していた研究出張ならびにそれに伴う図書購入や収集資料の整理のためのアルバイトの依頼が一部実行できなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度に、研究出張を組み込み、昨年度予定していた図書購入や収集資料の整理を、アルバイトを雇って行う。(旅費に5万、図書購入に4万、資料整理の謝礼に約5万とする。)
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