最終年度(平成30年度)は、本研究(反奴隷制文学の諸相ーー「もう一つのアメリカン・ルネサンス」)の総括として、これまで見てきたスレイヴ・ナラティヴやストーを中心とした反奴隷制小説を、いわゆる「本流」とされる白人男性作家たちの反奴隷制の言説と比較対照し、その相互影響を検証したうえで、反奴隷制文学が「もう一つのアメリカン・ルネサンス」として再編が可能かどうか考察した。その結果、以下のことが明らかとなった。 第一に、ダグラスに代表されるスレイヴ・ナラティヴが、ストーの『アンクル・トムの小屋』に影響を与えつつ、さらにその後に発表された「ヒロイック・スレイヴ」が『アンクル・トム』に反発しながらも影響を受けていること、また、ダグラスの「反抗的な黒人ヒーロー」の数年後に書かれたストーの『ドレッド』がダグラスへのリスポンスとなっていることが明らかとなった。 第二に、上記の作品における反奴隷制の言説がハーマン・メルヴィルの『ベニト・セレノ』に反映されていることから、文学史上、峻別されたこれらの作品群に間テクスト性がみられることから、「反奴隷制文学」を「もう一つのアメリカン・ルネサンス」として再編する可能性があることが明らかとなった。 第三に、上記の文学史的再編が19世紀中葉の一時的現象ではなく、現代アメリカ文学にも引き継がれた伝統として位置づけられる可能性を、マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』を検証することで考察し、次のさらなる研究へと結びつけた。
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