研究実績の概要 |
2018年4月から2019年3月末までロンドン大学(SOAS)の客員研究員として招聘を受け、本研究に関してさらに研究を深めることができた。ロンドン大学の付属図書館をはじめとして、大英図書館のThe Reading Roomにて貴重な資料を直に手に取りながら、考察、分析できたことは、非常に幸運なことであった。その結果として、国際学会での学会発表を1回、本研究に関連した論文を5本、共著(2019年度出版予定)、学会誌、大学紀要等に発表することができた。 本研究を進めていく中で、宗主国イギリスの「過去の遺物」ともいえる「Victorianism」、つまり、ヴィクトリア朝中産階級的価値観が旧英領植民地において温存されてきた理由の一つに、被植民者、特に被植民者の中産階級の家庭内における「母親」の働きが実に大きく、その価値観の影響を強く受けてきた「娘」である女性作家たちの作品の中に、その呪縛に対する反発とそれに相反するかのような旧宗主国への「憧憬」が深く共存し続けていることが明らかになってきた。 特に、多感な少女時代に故郷がイギリスから独立した共通体験を持つ女性作家たち、Erna Brodber, Elizabeth Nunez, Jamaica Kincaidなどはその好例と言えるだろう。本研究では、アフリカ系のカリブ海地域出身の女性作家たちに焦点を当て、イギリスやアメリカといった大国へ移住し、作家として活躍する女性作家、また故郷にUターンして作家活動を行う作家の両者を比較分析したが、彼女たちの創作テーマには「母親」との関係性とVictorianismの呪縛が複雑に絡み合い、抑圧される「娘」の反発と葛藤という構図が内在している。 また、女性作家たちのautobiographicalな作品の持つ意義とその形式の有効性に関しても研究を展開できた点は、本年度の研究実績の一つであると考える。
|