研究実績の概要 |
本研究はアメリカ先住民のオジブウェ(アニシナベ)という部族に焦点化して、北米先住民作家の文筆活動と部族社会との関係を考察し、先住民文学の部族的な価値と超域的な意義を解明しようとするものである。本研究課題の最終年度にあたる2019年度は、過去の年度において主たる研究対象とした3人のオジブウェ作家(Gerald Vizenor, Louise Erdrich, David Treuer)に、彼ら以外のオジブウェ作家や他の先住民作家も交えながら、先住民文学の多様性について知見を深めるとともに、その普遍的な意義の解明を進めた。またトロイヤーの文学における白人文学の再利用と部族的な主題との関係性について、オジブウェと親交のあったモダニズム作家Ernest Hemingwayの分身Nick Adamsを主人公とするインディアン物語と絡めて探求を進めた。さらにWilliam Faulknerのヨクナパトーファ連作との類似が指摘されるアードリックの小説において、モダニズム的な物語作法や部族的な物語内容について、先住民にとっての正義/不正という観点から探求を進めた。具体的な実績としては、19世紀末にノースダコタで起きた先住民リンチ事件を虚構化して中心にすえ、架空の部族共同体における数世代の人間関係を複層的に紡いでいるアードリックの小説The Plague of Doves (2008) に焦点をあてて、作家が語りの信憑性をどのように主題化し、複合的な語りの様式と先住民に対する不正の物語をいかに調停しているのかを検証した。その成果を英文学会関東支部のシンポジウムで報告し、その発表を元にした論文を刊行した。
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