研究課題/領域番号 |
16K02522
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研究機関 | 長野工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小宮山 真美子 長野工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (30439509)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 19世紀アメリカ / ナサニエル・ホーソーン / 慰撫と弔意儀礼 / 埋葬と衛生問題 / twice-told |
研究実績の概要 |
本研究では、ナサニエル・ホーソーン(Nathaniel Hawthorne)が晩年に取り組んだ未完の作品を中心に、墓地を含めた土地空間の所有の問題、および死者の埋葬を中心とした慰撫と弔意儀礼が持つ意味について考察する。祖先や死者が眠る墓地という空間が、ホーソーン作品の中でどのような意味作用を持つのか、他の作品と比較しながら読み解く。また土地空間を獲得する行為と死者を埋葬する行為が、アメリカ国家の記憶にどのように結びついているのかについて検証することを目的としている。平成29年度は、以下の3点についての研究を行った。 1) 当初平成28年度に予定していた『アメリカの相続者原稿』の土地空間の相続の研究を行った。具体的にはロマンスという空間において、ホーソーンが晩年に「アメリカとイギリスを横断する相続の構想」を持った経緯、および祖先との関係がいかに作品に反映されているかについて、遺産と土地所有の問題を中心に研究発表を行った。 2) 平成29年度に予定していた「祖先や死者を埋葬する儀式や墓地がアメリカ国家にとってどのような意味を持つか」について、当初は『不老不死の霊薬原稿』を中心とした研究を進める予定であったが、同じテーマの解釈を『七破風の屋敷』の作品から試みた。これは『不老不死』の原稿の研究へと繋げるのに必要と判断したためである。本作における死体の描写、および19世紀における都市の埋葬や衛生問題についても検証した。執筆した論文は、現在投稿準備中である。 3) 墓地および土地空間の所有の問題を考察する上で、ホーソーンが物語を何度も語りなおすという手法をとっていることに気がついた。そこで「空間の所有」を「テクストの所有」というレトリックと併置した場合、繰り返される彼の"twice-told"という手法が、19世紀アメリカにおいてどのような意味作用を持っていたかについて考察をまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の平成28年度は出産に伴う産休を取得したため、研究予定の半分も終わらせることができなかった。よって途中になっていた『アメリカの相続者原稿』についての研究を、翌年の29年度も引き続き行い、研究発表を行った。 また平成29年度の後期から半年間、内地研究で成蹊大学文学部英米文学研究科の特別研究員として、同大学の図書館や共同研究室を使わせていただいたおかげで、研究関連資料や書籍にアクセスすることができた。またその期間に、研究内容を見直しを行った。具体的には、ホーソーンの晩年の未完の作品研究を進めるために必要となる「初期の短編執筆期」、および「中期の長編執筆期」を読み返し、それらの作品に墓地や埋葬がどのように描かれていたかについて再検証することができた。 よって、当初の研究計画とは内容が若干異なってはいるが、主要テーマである「墓地を含めた土地空間の所有という問題」についての研究はおおむね順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は総括の年として「ホーソーン作品における土地空間の権利と相続の問題が、祖先の埋葬といかに絡み合っているか」という課題を、他の作品の分析をまじえておこなうことを当初の目標として掲げていた。このためには、平成29年度に研究を予定していた『不老不死の霊薬原稿』、および晩年の旅行エッセイ「われらが故国」(Our Old Home, 1863)における南北戦争前夜のアメリカについても研究の射程に入れる予定であった。しかし、本研究を進めていくうちに、『不老不死の霊薬原稿』の分析を行う前に、アメリカとイギリスの土地所有の問題として、時空を越えた移民の物語としての『緋文字』を精読し、アメリカという土地空間の所有と相続の問題を再検討する必要があると気がついた。 以上の変更点を踏まえ、平成30年度は以下の二点を中心として研究を行う予定である。
1) 19世紀に書かれた17世紀開拓地ボストンの物語としての『緋文字』、および19世紀の空間で書かれた序章「税関」を読み直す。初代移民者としてのイギリス人へスターと、第一世代として生まれたパール、そしてそこで命を落としたディムズデールやチリングワースが新大陸に埋葬されたことなどを考慮し、大西洋を挟む英米間の移動、および19世紀ホーソーンの視点が込められた17世紀の土地空間の所有について検証する。また、これらの作品が民衆の「口承の証言」によって成立しているという枠組みについても再考したい。 2) 平成28年から29年度に研究した『アメリカの相続者原稿』の分析を深め、またそこに南北戦争前夜のアメリカについて、ホーソーンがどのようにアメリカという土地空間を認識し、それを受容しようとしていたかについて考察する。 以上2点は論文としてまとめる予定である。また研究が完了しなかった場合は、一年期間を延長する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が0よく大きくなったのは、平成28年度(初年度)に産前・産後休暇を取り、予定していた研究を進められなかったのが主な原因である。またそれに付随して国内・国外出張へも行けなかったため、旅費やを使用できなかった。平成29年度はおおむね、予定していた予算を使用した。 次年度使用額については、予定通り旅費、書籍の購入、英語論文の校閲費とする予定である。また研究が完了しなかった場合は、一年期間を延長する予定である。
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