研究課題/領域番号 |
16K02522
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研究機関 | 長野工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小宮山 真美子 長野工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (30439509)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナサニエル・ホーソーン / ダゲレオタイプの写真術 / 慰撫と弔意儀礼 / 埋葬と衛生問題 |
研究実績の概要 |
本研究では、ナサニエル・ホーソーン(Nathaniel Hawthorne)の代表的な作品と晩年に取り組んだ未完の作品について、墓地を含めた土地空間の所有の問題、および死者の埋葬を中心とした慰撫と弔意儀礼が持つ意味について考察する。祖先や死者が眠る墓地という空間が、ホーソーン作品の中でどのような意味作用を持つのか、また土地空間を獲得する行為と死者を埋葬する行為が、アメリカ国家の歴史と記憶にどのように結びついているのかについて検証することを目的としている。平成30年度は、以下の2点についての研究を行った。
1) 当初平成28年度に予定していた『七破風の屋敷』の土地空間と、その屋敷自体が象徴する「死」についての検証を行った。具体的には、土地の奪取の上に建てられた屋敷の歴史を、ダゲレオタイプという近代の写真技術を用いて、どのように暴かれていったのかについて検証した。また、本作における死体の描写、および19世紀における都市の埋葬や衛生問題についても検証し、論文にまとめた。 2)昨年度の「今後の研究の推進方策」で記した通り、19世紀に書かれた17世紀開拓地ボストンの物語としての『緋文字』、および19世紀の空間で書かれた序章「税関」を読み直した。初代移民者としてのイギリス人へスター、ディムズデール、およびチリングワースが新大陸に埋葬されたことをを考慮し、トランスアトランティックな視点を入れて17世紀の土地空間の所有について検証している。また本作品が民衆の「口承の証言」によって成立しているという枠組みについても再考し、現在論文にまとめているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の出産に伴う産休により当初から進捗は遅れていたが、平成29年度には一年遅れでおおむね順調に研究を進めることができた。この時期に研究計画の見直しを行い、ホーソーンの晩年の未完の作品研究を進めるためには、「初期の短編執筆期」および「中期の長編執筆期」を再読が必要だとの認識に至った。よって平成29年度には初期に書かれた短編の再検証を行い、論文にまとめた。 引き続き平成30年度では、中期の長編小説である『緋文字』および『七破風の屋敷』の再読を行った。前者については現在論文にまとめている途中であるが、後者の作品は、埋葬と墓地というテーマがどのように描かれ、処理されてきたのかを、19世紀中葉のアメリカ都市社会の問題を踏まえて論証を進めることができた。しかし、昨年度に研究計画の見直しを行ったため、当初とは内容が若干異なり全体的に研究は遅れているといえる。それでも主要テーマである「墓地を含めた土地空間の所有という問題」についての研究はおおむね順調に進めており、引き続き軌道修正を行った路線で研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初は平成28年度から30年度の3年間の研究期間を想定していたが、平成28年度の出産を伴う産休を取得して研究が遅れたため、1年間延長をして令和元年まで本研究を続けることとした。令和元年は総括的に「ホーソーン作品における土地空間の権利と相続の問題が、祖先の埋葬といかに絡み合っているか」という課題をまとめてゆく予定である。本年度は以下の二点を中心として研究を行う予定である。
1)現在進行中の『緋文字』、および19世紀の空間で書かれた序章「税関」の論文を完了させる。テーマとしては、共同体としての空間成立の場が果たされたMarket-Placeとそこで説教を行ったディムズデールの声に焦点を当て分析を行う。その上で、監獄と墓地で始まり、二人の墓の描写で終わるこの作品が「証言のリレー」で成り立っていることを鑑みて、物語という空間における所有と弔いについて考察する。
2)平成28年度から続けている『アメリカの相続者原稿』の分析を深め、研究発表を行い、その成果を論文にまとめる。アメリカとイギリスの空間に分けて置かれた過去を繋げる鍵、および墓地の空間の扱われた方を再読し、南北戦争前夜のアメリカについて、ホーソーンがどのように英米の土地空間を認識し、それを受容しようとしていたかについて考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が0よく大きくなったのは、平成28年度(初年度)に産前・産後休暇を取り、予定していた出張へも行けなかったため、旅費や雑費を使用できなかったからである。平成30年度はおおむね予定通りに予算を使用した。最終年度である令和元年度は、予定通りに国内外の旅費、書籍の購入、英語論文の校閲費とする予定である。
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