モンテスキューの書簡体小説『ペルシア人の手紙』(1721年)の翻訳作業に関して、最終原稿を完成することができた。具体的には、2017年度の終わりまでに一度作成してあった下訳原稿を一年間かけて推敲し、注釈、解説、参考資料の作成、付随テクストの訳出等の諸作業を終えた上で、無事、決定稿を出版社に提出することができた。本科研費の期間内に出版するという予定からはかなり大幅に遅れてしまったが、刊行そのものは確実な運びとなった。 さらに、翻訳作業の終了をきっかけに、18世紀フランス思想の研究者たちが集う研究会において『ペルシア人の手紙』が持つ小説作品としての魅力について、多角的に分析・考察する研究発表の機会を得ることができた。 モンテスキューは、初期の代表作『ペルシア人の手紙』において、箴言、省察、肖像描写(ポルトレ)などに比重を置いた17世紀モラリスト文学の伝統を独自に継承している、という発見を得ることができた。例えば、モンテスキューは、18世紀フランスの社交界に対する風刺や、東洋と西洋の政治、法、経済、道徳、風土、価値観、生活様式などの多面的な比較にあたり、先行文学の方法を自己流に応用したのである。哲学とフィクションの混合体の創出を通して、モラリスト文学の遺産を継承するという問題意識は、モンテスキューを先駆けとして、ディドロ、ルソー、サドなどの18世紀フランスの主だった思想家たちにそれぞれの仕方で受け継がれている、との見通しを持つことができた。
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