研究課題/領域番号 |
16K02527
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺田 寅彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30554456)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エミール・ゾラ / 人権同盟 / メダン |
研究実績の概要 |
本年度はとりわけフランス諸機関での資料調査が進んだ。パリ市病院資料室(Les Archives AP-HP)と、エミール・ゾラの別邸があることで知られるメダン(Medan)の村での調査が進んだ。ゾラの別邸は「メダンの館」として知られ、人権同盟が中心となった「エミール・ゾラの会」の毎年の巡礼の地でもあるが、ゾラの死後、未亡人がパリ市病院に寄付したことから小児科病棟としてふだんは使われていた。この利用については今までほとんど知られてこなかったが、パリ市病院資料室で見つかった病棟への患者の登録台帳とメダン村に残る死亡届の台帳の突合せを行うことで、病院の運営の実態が初めて明らかになった。メダン元村長の証言もインタビューにより得ることができて、メダンの村民とメダンの館の結びつきの輪郭も明確になった。現在ゾラ記念館となっている「メダンの館」が病院から記念館になる経緯を詳らかにする資料は、今まではゾラの娘であるドゥニーズ・ゾラの証言しかなく、病院としての「メダンの館」があたかも無意味な存在であるかのような言説しかなかったが、運営の実態が明らかになることで社会的に大きな役割を果たしていたことが明らかになった。このことからゾラの死後から1950年代までの「メダンの館」の位置づけの認識を根底から覆されることとなった。病院として社会的に役立つ存在としての「メダンの館」の姿は、人権同盟やゾラの未亡人アレクサンドリーヌの社会的な活動と一致するものであり、現在はまったく顧みられることがないものである。一方で地方における人権同盟の活動についてはエックス・アン・プロヴァンスでのゾラの彫像の設置式を巡っての右翼との対立を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度予定していた作業のなかで、フランス諸機関における資料収集と分析作業は、従来は知られていなかったゾラの別邸である「メダンの館」の社会的な役割を明らかにするめざましい成果を出すことができた。また地方における資料の分析も、研究に大きな進展を与えることができた。それぞれ人権同盟やゾラ未亡人のアレクサンドリーヌの社会貢献を明確にする成果であり、今まではゾラの遺族の証言にしか頼ることの出来なかったこの時代のゾラを巡る活動を根拠をもって明確にすることができた。この点で研究は当初の計画以上の成果を得つつ進んでいると言える。しかしながら、研究成果の発表の点では時間がかかり、来年度に引き継がれる課題となる。そして、日本で閲覧可能な資料の収集・分析作業と合わせて、成果を発表していくことに労力を注ぐことがこれから必要となる。総合して本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は来年度に最終年度となることから、今までの研究の成果をまとめて発表していくことに労力を注ぐことになる。細かい資料の確認のためには複数回の現地調査がなお必要であり、今後の研究の推進方策としては、研究のまとめと精緻な情報確認が中心となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大防止策の影響で渡仏・研究調査の計画が中止となったため次年度使用額が生じた。予定されていた調査は次年度に実施し、研究計画を進める予定。
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