研究期間全体を通じて、フランスにおける日本文学受容の実態を明らかにすることを目指し、対象とする時代を両次大戦間期(第二次大戦中を含む)に絞った上で、特にフランスのジャポニザンの活動とその周囲の状況に着目して調査・分析を行った。その際、ジャポニザンに活動の場を提供したいくつかの定期刊行物(Revue franco-nipponne「日仏評論」、France-Japon「フランス・ジャポン」、Le Mouton blanc「白い羊」など)について精査することで考察を深めることを心掛けた。その主たる成果は「フランスにおける日本文学受容の一側面-火野葦平の場合」(『信州大学人文科学論集』第4巻、p. 141-153)や「白い羊と俳句-フランスにおける日本文学受容の一側面」にまとめられている。前者は1939年から1940年にかけて「フランス・ジャポン」誌や「フィガロ」紙に掲載された火野葦平作品の抄訳・紹介の内実を検討するものであり、翻訳・紹介を手がけた者の思想、行動にまで考察の範囲を広げた。後者の論文は俳人ルネ・モーブランに即してフランスにおける俳句の受容を考察したものである。モーブランが関わっていた「白い羊」誌に着目することで、両大戦間期のフランスにおける俳句の流行が「モダンな古典主義」という文学的潮流と結びついたものであったことを明らかにした。どちらの論文も、これまで知られていなかった新事実の発見を含むこと、また、フランスにおける日本文学受容について考察するにあたって単に書誌的調査に終始するのではなく、フランスの社会的背景や文学的・思想的潮流と日本文学との接点を探ったことに特色があると言える。さらに最終年度には研究成果を広く発信することを心掛け、一般向けの刊行物に寄稿した。「藤田嗣治と刺青のこと」(『ふらんす』2018年7月号、p. 19-21)がそれである。
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