研究課題/領域番号 |
16K02533
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永盛 克也 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10324716)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ラシーヌ / 新旧論争 / 旧約聖書 / エステル |
研究実績の概要 |
17世紀末および18世紀前半における劇作家としての、また宮廷人としてのラシーヌに対する同時代人の証言を手掛かりにして、ポール・ロワイヤルの「小さな学校」で身につけた人文主義的教養と同時代の宮廷社会において重視された社交的礼節の精神とを見事に総合した点に劇作家および宮廷人としてのラシーヌの成功の要因があることを論じた。 また前年度に引き続き、1689年に上演されたラシーヌの宗教悲劇『エステル』を同時期に進行していた新旧論争および神学論争の文脈の中に位置付ける考察を行った。 『エステル記補遺』はプロテスタントによって外典として退けられたが、トリエント公会議において正典として確認されたものであり、このテクストを劇の重要な典拠とすることは、ナントの勅令廃止(1685年)により迫害の対象となったプロテスタントとは一線を画す立場を示すことになる。一方、ルメートル・ド・サシ訳『エステル記』(1688年出版)では『補遺』の部分において神の摂理が果たす役割の重要性について長い註解が加えられている。特にエステルの前でアシュエリュスの怒りを鎮めるのは「有効な恩寵」であることがアウグスティヌスの著作に依拠して述べられており、イエズス会の主張する「十分な恩寵」説への反論として読むことができる。こうして古代の権威である教父の著作に依拠した聖書注解が、近代の神学者の解釈に対置される構図が成立するのである。このように悲劇『エステル』の創作と上演を同時代の新旧論争および神学論争と関連づけて考察することによって新たな展望を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究テーマに関する文献資料の調査・収集をさらに進めることができた。 具体的な成果として、劇作家および宮廷人としてのラシーヌにおける礼儀と礼節の重要性についての考察をまとめることができた。 また、ラシーヌの宗教悲劇『エステル』を古代の文献の権威をめぐる新旧論争、および恩寵をめぐる神学論争の文脈の中に位置付ける考察をさらに進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
悲劇『エステル』の創作と上演の背後には、プロテスタントとイエズス会のいずれとも対峙することを強いられていたポール・ロワイヤルの人々に対するラシーヌの連帯が読み取れるのではないか、という仮説に立ち、イエズス会のラ・シェーズ師の請願により国王が1686年に閉鎖を命じたトゥールーズの女子修道会を擁護するために、1688年にアルノーが出版した著作『中傷により虐げられた無実の人々』が『エステル』創作に与えた影響について調査・考察する予定である。 また、新旧論争の観点から、ラシーヌが悲劇『エステル』において古代派の文芸の主張をどのように実践しているか具体的に検討する予定である。さらに、ラシーヌとその作品が近代の成果として「回収」される点についても考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
端数として次年度使用額が生じた。次年度に物品費として使用する。
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