研究課題/領域番号 |
16K02535
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
吉田 典子 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20201006)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エミール・ゾラ / シャルル・ボードレール / エドゥアール・マネ / ポール・セザンヌ / 美術批評 / 文学と絵画 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果は次の5点にまとめられる。(1)ボードレールとマネの関係については、2016年に発表した「ボードレールとマネ――散文詩「紐」を中心に」に続き、本年度5月に東京大学で開催された国際シンポジウムにおいて、「マネの見た1862年のボードレール--《テュイルリーの音楽会》とボードレールの美学」と題してフランス語での発表をおこなった。この論考は、フランスで刊行されている研究誌L'Annee Baudelaireの第23号(2019年春刊行予定)に掲載される予定である。これら2つの論考によって、ボードレールとマネの関係について、これまでにない新しい知見をもたらすことができたと思う。 (2)ゾラの美術批評について、2016年に口頭発表した内容を発展させて、本年度7月に「ゾラの美術批評とボードレール―隠された系譜」と題した論考を『国際文化学研究』に発表した。これにより、2012年に発表した「ゾラの文学批評におけるボードレール評価について」と合わせて、両者の関係を見直すことができた。 (3)ゾラとマネの関係について、1880年はゾラの「自然主義」が頂点に達した年であるが、この年シャルパンティエの経営する〈現代生活〉画廊でマネの個展が開催された。この個展とゾラの関係を探る研究の端緒として、画廊の特性と展示作品の同定を行う論考を執筆・発表した。 (4)マネ研究、ジャポニスム研究の一環として、大手前大学で開催されたシンポジウムで「マネにおけるジャポニスムと共和主義」について発表した。この発表ではマネのジャポニスムを総合的に整理するとともに、共和主義との結びつきについて論証した。すでに論考も執筆している。 (5)ゾラとセザンヌの関係については、ミトラン編『往復書簡集』の翻訳を進めており、2018年12月に開催予定の国際シンポジウムに向けて、アラン・パジェス氏の招聘準備なども進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、この課題の具体的な研究目的として、(1)ボードレールとマネの関係の再考、(2)ボードレールからゾラへの批評言説の継承と発展、(3)ゾラの初期作品における絵画からの影響、(4)ゾラとセザンヌの関係の再考、の4点を挙げていた。(1)については、「研究実績の概要」の(1)に書いたように、2つの国際シンポジウムでの発表を終えて2つの論考を執筆し、すでに当初の目的を達している。(2)についても、「研究実績の概要」の(2)に記したように、美術批評の分野でのボードレールからゾラへの継承と発展を立証することができた。(3)については今後ゾラとマネ、セザンヌとの関係を踏まえつつ研究を進める。(4)については、「研究実績の概要」の(5)に記したように、2018年12月開催予定のゾラとセザンヌに関するシンポジウムに向けて準備を進めている。 当初の具体的な研究計画にはなかったのが、「研究実績の概要」の(3)に書いた1880年前後におけるゾラとマネに関する研究であるが、このテーマはこれまでほとんど着目されていないものであり、『居酒屋』や『ナナ』の時代のゾラ作品と、マネの後期作品との関係を検証することを目指している。また「研究実績の概要」の(4)はマネのジャポニスムに関する研究であるが、マネのジャポニスムは、彼の政治的信条である共和主義と結びついていることを論証している。共和主義はマネとゾラを結ぶ重要な接点のひとつであることから、この研究もまたマネとゾラにかんする総合的な研究の一環として位置付けられる。 以上のように、当初の計画を超える変更点も出てきたものの、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(1)ゾラとマネに関する総合的な研究、および(2)ゾラとセザンヌの関係再考という二つの研究目的をもって研究を進める。 まず(1)については、1880年の〈現代生活〉画廊におけるマネの個展とゾラの自然主義との関係についての考察を進める。2018年5月には、京都大学フランス語学フランス文学研究会総会において講演をおこなうことになっているので、その機会を利用して研究成果の一部を発表する。その成果は、研究会機関誌の『仏文研究』に掲載される予定である。また、ゾラの初期小説『テレーズ・ラカン』や『マドレーヌ・フェラ』などとマネの絵画についての研究をおこない、ゾラとマネの関係についてのこれまでの研究をまとめる。 (2)に関しては、継続中のアンリ・ミトラン編によるゾラとセザンヌの往復書簡集の共訳(法政大学出版会)を本年度中に完成させる。そして、2018年12月2日に開催予定の日仏美術学会主催の国際シンポジウムにおいて、研究発表をおこなう。このシンポジウムは、セザンヌ研究者である永井隆則氏(京都工芸繊維大学准教授)との共同で開催するものであり、永井氏がセザンヌ研究者であるドゥニ・クーターニュ氏(元グラネ美術館館長)およびジャン・アルイユ氏(プロヴァンス大学名誉教授)を、吉田がゾラ研究者であるアラン・パジェス氏(パリ第3大学名誉教授)を招聘する計画になっている。パジェス氏の旅費・滞在費、およびシンポジウムの通訳料の一部は、この科研費より拠出する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
来年度は本科研費によって、ゾラ研究者であるアラン・パジェス氏(パリ第3大学名誉教授)を招聘する予定である。旅費・滞在費、およびシンポジウム通訳料の一部を拠出する予定のため、次年度に繰り越すことにする。
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