本研究の実績は次の4点にまとめられる。 (1)1860年代のボードレールとマネの関係については、1年目にボードレールがマネに捧げた散文詩「紐」とマネの絵画についての検討を行い、2年目にはマネがボードレールを登場させた絵画《テュイルリーの音楽会》を通じて、1862年のボードレ―ルの美学とマネへの影響を論じた。3年目には「ボードレールとマネ関連資料」をとりまとめ、両者の関係を総合的に把握することを試みた。伝記的な資料には限りがあるので、実際の文学作品および絵画作品の分析が重要となることがあらためて確認された。 (2)ボードレールからゾラへの系譜について、これまでゾラはボードレールに無理解であったとする考え方が一般的であるが、ゾラの美術批評の随所にボードレールの美術批評からの影響が認められる。1年目にはこの主題について国際シンポジウムで報告し、2年目には研究論文として、両者の共通点と差異を整理して示した。またこの研究と平行してゾラの「わがサロン(1866年)」の新訳と関連絵画の調査を試みた。 (3)ゾラとマネの関係について、ゾラの自然主義が頂点に達した1880年に〈現代生活〉画廊で開催されたマネの個展とゾラとの関連について考察した。またマネとゾラを結びつけていた共和主義の政治的信条とマネのジャポニスムの関連について論じた。 (4)ゾラとセザンヌについては、ミトラン編の『往復書簡集』の翻訳を進めると同時に、3年目には『セザンヌとゾラの創造的関係を再考する」と題した国際シンポジウムを開催し、アラン・パジェス氏(パリ第3大学名誉教授)を招聘した。セザンヌ側から4名、ゾラ側から4名の登壇者が発表し、大きな成果を得た。吉田は初期往復書簡を出発点として、絵画と文学の問題を考察した。 以上の本研究の概要を京都大学仏文学会の招待講演で「ボードレール・マネ・ゾラの系譜をめぐって」と題して講演・執筆した。
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