研究課題/領域番号 |
16K02536
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
辻 学 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (50299046)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 新約聖書 / 偽名文書 / 公同書簡 / ヤコブ / ペトロ / ユダ / 間テクスト性 |
研究実績の概要 |
本年度は、分析対象としている文書のうち、とくに第一ペトロ書簡に集中的に取り組み、その偽名性をめぐる議論を整理して、この書簡がペトロ自身の筆によるものではないことを立証する作業を完了した。第一ペトロ書については、今日もなお、これをペトロの真筆と見なそうとする研究者がいるが、その主張が成り立たないことを本研究において明らかにすると共に、偽名書簡としての機能、偽名性を覆い隠すための工夫、またパウロ書簡とのつながりや、文書が偽造された背景や意図についても解明を試みた。 本研究の成果は、2018年9月に日本聖書学研究所において日本語で、さらに10月には国際新約聖書学会アジア・太平洋支部会において英語で発表した。また英語版は、論文の形でも公表することになっており、2019年中にオーストリアのインスブルック大学出版会から公刊される論文集(前述の国際大会における研究発表を取りまとめた共著)に収録されることが決まっている。 第一ペトロ書については、これが偽名書簡であることの大きな証拠の一つとして「クリスチャン」という(異邦人キリスト教徒が使い始めたと考えられる)用語が書簡内で用いられていることが挙げられる。この問題については、2019年7月末開催の国際新約聖書学会大会(於、マールブルク)で口頭発表することが決まっている。 さらに、ユダ書簡・第二ペトロ書簡についても分析を進めており、この2通の偽名文書が成立した背景については、2019年中に口頭発表を行うと共に論文にまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一ペトロ書簡については分析を完了し、口頭発表および論文の形で成果を公開するに至った。またユダ書簡・第二ペトロ書簡についても分析を進めており、成果発表の準備には入っている。他方、その他の初期キリスト教文献についての分析が計画よりも遅れているが、必要な研究文献の収集と整理、また基本的な分析は進んでおり、分析作業をさらに進める段階には来ている。
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今後の研究の推進方策 |
新約以降の初期キリスト教文献における偽名文書の分析を進め、新約聖書を含む初期キリスト教文献において偽名文書が数多く創作された背景と目的を取りまとめる作業に入っていく。また、ヤコブ書簡と第一ペトロ書簡との間の相互関係について、計画通りに進展していない面があるので、この分析も併せて進めていく。ユダ書簡および第二ペトロ書簡の分析に予想外の時間を万一要した場合には、新約以降の文献の分析を予定よりも簡略化した形で進めていく必要がある。
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