本研究は、新約聖書の中にある偽名書簡で、パウロ以外の人物(ヤコブ、ペトロ、ユダ)の名前を冠した4通の書簡、さらに新約聖書以降に著された初期キリスト教文献の中にある偽名文書を取り上げ、初期キリスト教の中でそのような偽名文書が作られた歴史的背景また文学史的意義を明らかにしようとしている。パウロ以外の人物を騙る偽名文書には、パウロ系統には属さないキリスト教徒たちの思想が、パウロ的キリスト教に対抗する形で(あるいは補完する形で)反映している。つまり偽名文書には、様々なキリスト教の流れが、「草創期」の人物の名前を借りた偽名文書によって自らの理解を正当化していく過程が見て取れるのである。
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