研究課題/領域番号 |
16K02537
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高木 信宏 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (20243868)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 文学作品の受容 / 作家による批評 / スタンダール / ポール・ヴァレリー / リュシアン・ルーヴァン |
研究実績の概要 |
本年度(平成28年度)は当初の研究計画を変更し,オノレ・ド・バルザックの「ベール氏論」ではなく,ポール・ヴァレリーの評論「スタンダールについて」の考察を行った。その理由は,所属機関にヴァレリー研究者の鳥山定嗣氏を1年間の任期付助教に迎え,ヴァレリー研究の動向を踏まえつつ,本研究に関連する情報を提供していただけるという僥倖に恵まれたためである。 まずヴァレリーがジャン・ド・ミティの編んだ『リュシアン・ルーヴェン』を読んだ時期を確定し,両者の間にどのようなやり取りがあったのかを具体的に把握するために,フランス国立図書館ならびにフランス学士院図書館に所蔵されているミティの未刊書簡や関連文献を網羅的に調査した。ヴァレリー自身の証言によれば,小説刊行直後に読んだということだが,本の奥付にも主要な書誌にも出版年月日の記載はなく,時期の特定が困難だったからである。調査の結果,フランス学士院図書館で見つかったミティの未刊書簡の一通に刊行時期を推定するうえで手がかりとなる重要な記述が見つかり,その裏付けとなる複数の書評にも当たることができ,ヴァレリーが『リュシアン・ルーヴェン』を読んだ時期をほぼ特定することに成功した。この読書体験の意味を掘り下げて考えるためは,それを詩人の生涯,とりわけ創作を含めた精神史のなかに位置付ける必要があり,目下考察を継続中である。 以上の研究成果についてはその一部を学術論文にまとめ,九州大学フランス語フランス文学研究会発行の『ステラ』第35号誌上に査読審査を経て公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度にあたり,ポール・ヴァレリーによる『リュシアン・ルーヴェン』の読書体験を把握するうえで手がかりとなる資料を発見,収集することができ,課題についての考察をさらに深めるための考証を順調に進めている。これまでの研究によって,小説嫌いのヴァレリーが例外的にスタンダールの作品世界に没入できた背景には,ロヴィラ夫人に対するヴァレリーの一方的な恋愛という経験が与っていることを実証的に裏付けることが可能となり,現実の恋とフィクションに描かれた恋との比較を通じて,各々の特徴を相照らしつつ解明する視点がいっそう確実なものとなったからである。その意味で,研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は前年度の研究成果にもとづきながら,ヴァレリーによる『リュシアン・ルーヴェン』の読書体験の意味を明らかにする予定である。具体的にはロヴィラ夫人に対する恋の考察からこの詩人特有のファンタスムの有り様を導き出し,それがスタンダールの小説世界にいかに接合しうるのかを検討することになるが,その際には小説の成立にかかわる後者のファンタスムについても,未刊資料等の渉猟にもとづく実証的な考察を踏まえつつ論じることになろう。一見したところ文学的な志向が非常に異なる両作家であるが,彼らの資質のうちに認められる相同性と相違とについて,『リュシアン・ルーヴェン』というテクストを媒介にしながら論考を慎重に進める予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じてはいるが,1,898円と極めて少額であり,本年度の使用計画から大きく外れた結果ではない。強いて理由を挙げるならば,最後に購入した物品が予想よりも若干安く購入できたためであろう。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度への繰越し額は,1,898円と極めて少額であり,使用計画の変更を強いるものではない。したがって,当初の計画に沿って研究を遂行することが可能である。
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