研究課題/領域番号 |
16K02541
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
白田 由樹 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (00549719)
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研究分担者 |
高井 絹子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (20648224)
辻 昌子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 研究員 (20771918)
長谷川 健一 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 講師 (50597648)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 新しい芸術 / 装飾 / 蒐集 / メディア / ナショナリズム / 即物的芸術 / 「規格化」論争 / ドイツ工作連盟 |
研究実績の概要 |
白田はフランス的装飾スタイルを「アール・ヌーヴォー」の名とともに普及させた美術商人ビングの言論と活動を、当時のフランスにおける排他的愛国主義との緊張関係から解明する論文を大阪市立大学フランス文学会刊行の『リュテス』に発表した。また、ベルギーの応用芸術運動を牽引したヴァン・デ・ヴェルデの「新芸術」の構想とそこに至るまでの模索期に、病んだ文明に対する危機感と原初的な生命力への志向があったことを示す研究発表を行った。 髙井はウィーンでの現地調査を行い、オットー・ヴァーグナーのシュタインホーフ教会内陣や、ヨーゼフ・ホフマンの設計した個人住宅のあるホーエヴァルト、およびリングシュトラーセ沿いの歴史主義建築を訪ねて写真に収めるとともに、文献資料との照合から、オーストリアでの芸術運動に関わる言説と実作品との照合に向けた準備的検討を進めた。 辻は大阪市立大学フランス文学会において、一般大衆に向けて書かれた室内装飾蒐集のための辞書についての考察を発表し、その後、同テーマについて論文執筆の準備を進めている。また、19世紀末のコレクター向けガイド本やメディア上での言及について、フランス国立図書館にて資料収集を行った。 長谷川は、ムテジウスの考える「近代性」とその意義を同時代の「新しい芸術」運動との関係から考察する中で、ユーゲントシュティールに向けられた彼の「装飾」批判に着目し、それが「即物的芸術」という理念から導かれていることを確認した。そのうえで、この理念と住宅建築(ラントハウス)との関係を検証し、彼の思想の根底に、英国を模倣しつつも、近隣各国との差異化を強く意識した「ドイツ的なもの」への志向があることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的に予定どおりの成果はあがりつつあるが、個々の研究課題において基礎的調査や文献の消化に時間がかかっており、とくに、分析に必要な資料は出揃いつつあるものの、膨大な資料の中での各々の位置づけを整理しきれていない部分がある。また、研究成果の公表を兼ねた全体的な比較検討と考察については、まだ今後の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
白田は、ベルギーからドイツに活動の場を移すヴァン・デ・ヴェルデの軌跡を追うとともに、1900年に確立されたフランス的「アール・ヌーヴォー」の隆盛と衰退、それとは一線を画したよりシンプルで合理的な装飾デザインへの模索を、その根幹にある思想と社会的原動力から考察する。また他の分担研究者との比較の中から、ベルギーという地域の特性を改めて解明していく。 辻は、引き続き室内装飾の蒐集に関するメディア上の言及について、資料収集と分析を行う。新聞連載小説としては、Paul Bourget, La Dame qui a perdu son peintreに描かれる新しいコレクター層についての考察を行う予定である。また、当時大衆向けに書かれた蒐集ガイド本の分析から、売り手によるメディアを利用した宣伝手法や買い手の趣味の傾向などを考察していく。 髙井は引き続き、ウィーン工房に見られる、とくにイギリスの影響をみる。具体的には美術評論家ルートヴィヒ・へヴェシの評論集2冊から当時のイギリス嫌い、イギリス贔屓の言説を拾い出し、工房のデザインの変化について考察する材料とする。 長谷川は、ベルリン等での調査を夏期休暇中に実施し、ムテジウスの人的ネットワークの調査ならびに関連文献の拡充・分析に努め、「即物的芸術」をめぐる議論とラントハウスとの関係の検証を続ける。その成果を踏まえて、次なる課題、すなわちドイツ工作連盟におけるムテジウスとヴァン・デ・ヴェルデの間で勃発した「規格化」論争を分析し、ムテジウスの考える「近代性」の意義とその限界について考察する。 また、それぞれの研究成果をふまえながら、各国・地域の相互作用についての考察をおこなっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)校務や家庭の事情などにより年度内に実施できなかった渡航調査があったため、旅費に使い残しが生じた。また、研究に必要な資料文献のうち、入手が困難であることから複写の取り寄せやデジカメ撮影で済ませたものがあり、物品費にも余りが生じた。謝金・人件費についても、予定していた文献の入手が遅れたため、依頼すべき翻訳の手配が年度中に間に合わなかった。 (使用計画)旅費については、本年度において延期された渡航調査を実施し、予算を使用する予定である。また、必要に応じて国内外からの文献の取り寄せ、書籍の追加購入にあてる。翻訳などの人件費・謝金についても、すでに入手できた資料の翻訳を依頼しており、次年度中に執行される見込みである。
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