1.2019年度に実施した研究成果 バルザックと同時代の画家ドラクロワがバルザックの作品に与えた影響を検証し、彼の絵画や絵画論が『人間喜劇』に果たした役割が大きいことを明らかにした。次に、ゴンクール兄弟の『マネット・サロモン』を取り上げ、絵画小説の先駆けとされるバルザックの『知られざる傑作』、『マネット・サロモン』の後に書かれたゾラの『制作』とも比較しながら、男性作家と女性モデルの関係をジェンダーの視点から分析した。 2.研究期間全体を通じて実施した研究成果(上記の研究以外) ①バルザック研究:『人間喜劇』における食べ物と娼婦の密接な関係をジェンダーの視点から探った。反革命運動を扱った歴史小説『ふくろう党』に関しては、革命の歴史を絡めながら、モード、ジェンダーの視点から読み解いた。②ジョルジュ・サンド研究:『ジャンヌ』において、ホルバインの聖母像、カノーヴァのマグダラのマリア像に喩えられる女主人公を、当時の「女らしさ」の概念と照らし合わせながら考察した。「捨てられた女」のテーマに関しては、『ラヴィニア』『メテラ』を取り上げ、バルザックの作品と比較することで、男性優位の社会に対する女性作家の異議申し立てを明らかにした。また、サンドと女優マリー・ドルヴァルとの関係に注目し、ドルヴァルがサンドの小説における「理想の女優」(=自立した女性)像のモデルであることを立証した。③ゾラ研究:『獲物の分け前』において、「モードの女王」ルネがどのように描かれ、彼女の身体がいかに搾取されていくのか、その衣装や服飾用語に焦点を当て、印象派などの絵画と密接に関連させながら考察した。 以上のように、本研究者はジェンダーの視点から19世紀文学を読み解くと同時に、作品と密接に関連する絵画と結び付けることで、美術の領域ともリンクさせた領域横断的な研究を達成することができた。そこに本研究の意義が見いだせよう。
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