新型コロナウィルスの感染拡大によって、2019年度に計画していた取材調査が実施できなかったため、1年間の延長申請をして、2020年度に計画を実施することにしていた。しかし感染拡大は終息することはなく、緊急事態宣言が発出されるなど研究を計画通りに遂行する状況ではなかった。そのため当初は、クローデルと親交のあった人物の遺族への取材調査を行う予定だったが、実施は困難と判断して、中止し、クローデルが国学などの日本思想、仏教、老荘思想などをトマス・アクィナスの思想を介して、独自に解釈し、自己の文学活動に組み込んでいったことを包括的に考察し、まとめることにした。 考察の対象としたのは、三篇の対話篇「詩人と三味線」「詩人と香炉」「ジュール、あるいは二本のネクタイをした男」の他に日光の自然と宗教を扱った「日本人の魂への一瞥」、竜安寺を題材にした「自然と道徳」、文楽を紹介した「文楽」、卓越した能論である「能」、日本文学を紹介した「日本文学散歩」といった一連の日本論、「森のなかの黄金の櫃」「散策者」「そこここに」といった日光や京都に材を取った散文詩、封建時代の日本を舞台にした「女と影」、クローデルの代表作の「繻子の靴」などである。これらの分析からクローデルが日本人の死生観をスコラ学的に読み換え、独自の解釈を加えていったことを明らかにでき、クローデルが日本の理解者・紹介者にとどまっておらず、日本を読み換え換骨奪胎して独自のものにしていったことを明らかにできた。 この考察の一端は、2021年3月に実施したクローデル・セミナー「クローデルとその時代」において「アリストテレスと唐辛子」と題して発表した。なお、このセミナーは新型コロナウィルスの感染拡大が終息していないので、遠隔会議システムを用いて、オンラインで実施した。そのため日本各地はもとより海外からも聴衆が参加し、延べ人数で160人超にもなった。
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